万年筆

まるである日出会ったみたいに

甘く、甘く、溶ける、

それが木曜日でありませんようにと

目を、逸らし、叶ってしまう、

夜になりたいと泣いたあなたの

横顔こそが秋驟雨で

夜になれないあなたと

あなたになれない私とが

手だけ繋いで

低いほうへ、より低いほうへ、

水は流れる、インクは滲む、

あなたがあなたであれるように

許すことを許せるように

困惑の置きどころを選べるように

慰めあえたならばいい

そよ風が吹いたらなおいい

青白い肌をさらりと晒して

(気が済むまで記憶をなくそう)

私たちが言葉を得たのは

失ったことに気づくため

そういうことなんでしょう

宝物から燃やしていったら

最後にあなたが残った

そういうことなんでしょう

あなたはゆっくり頷く

指先から夜に溶けてながら

私の戯言を肯定してしまう

あなたが夜になったあと

世界中のラブソングに出てくる

“love”を青黒く塗り潰した

ちゃんとそこも夜になるように

夜を閉じ込めた万年筆なら

今でも机の一番上の引き出しの中

どうしようもなく寂しくなると

そっとそれを取り出して

ペン先を舐めてしまうのです