自転車——輪舞曲にのって

傷つくくらいなら
優しくなんてなくていいよと
伝えてくれた人が
襤褸を纏って笑っている

手垢のついた選民思想を
青い炎で燃やすと
楽譜が生まれる

傷つけるくらいなら
黙っていたほうがいいよと
教えてくれた人が
正気の狭間で泣いている

楽譜に沿って自転車を
カラコロ転がすと
輪舞曲が生まれる

僕らは物心つく前からひたすらに比べられ
気がつけば選ばれることの奴隷になってた

目に見えないレールから外れるのを恐れて
努力や才覚を搾取されてきたことに蓋して

寂しさを寂しさで埋めようと必死だったし
生きることにいつのまにか代償を求められ

本当に笑っている人がどこにもいないんだ
それでいいはずがないとわかっているなら

口笛を吹け!
輪舞曲にのせて
どうせ、なんて思わずに
とことん優しくなろうよ

手を叩け!
輪舞曲にのせて
比較級の檻の虜たちには
吸えない空気を吸おうよ

ペダルを思い切り踏み込む
それがリズムのすべてだ
輪舞曲の指揮をとるのは
いま、それでもいいと
それでこそいいのだと
優しくなることを恐れず疑わず
傷つく覚悟を決めたあなた自身だ