垂れ糸

~注意事項という名のプロローグ~
※これは、虚構を重ねる言の葉によって紡ぎだされる小説の『一考察』に過ぎません。

~第一章~
文字という文字に踊らされ続けた
とある作家が
辿り着いた一つの真実、
あるいは狂信的な勘違い
それは主人公の口から漏れた

「嘘は暴かれないうちが華でしょう」

街角で震える沈黙少女を代弁した
その最初で最後の言の葉は
表現されて即、ありふれた常識へと堕ちていく

如何に克明に叙事を記そうが
メディアを通せば偽りの嫌疑をかけられ
作家のこころはささくれ立つのみ

~第二章~
文字という文字に愚弄された
とある作家が到達してしまった場所、
そこでは花の代わりに嘘が咲く
それは青い薔薇のような奇跡に似ている

「偽りゆえに美しい事象を愛でよ」

flutter!
世の不文律を文字に起こすことは
断罪のための炎を熾すだけである

~第三章~
虚実皮膜を破って生まれる物語と
朧に意志を持って群れなす文字たちが
ついに反乱を起こした朝
彼は絶詠を決意した

いつもの街、あまり美しくないこの場所で
結びの言葉を探し彷徨いながら
ただ己の存在の可否・是非・理非そして黒白を問うた
この哀れな作家に注がれるのは紅涙か、同情か、それとも……

~最終章~
無作為抽出の結末、彼は枝分かれする未来の一片を知る

例1)ハッピーエンドへ捧げた犠牲と思惑

「唯一無二の君へ捧げる『物語』を今ここで、結ぼう」

紡がれては散った言葉達は
どこを巡り再び彼に宿るのだろうか
その答えは沈黙少女だけが知っている

例2)思考伝播と自己探求に腐心した場合

作家は白く濁った明日の方角を見つめ続け
筆をへし折り、しばし放心し、

「いよいよ私は自分の言葉を失ったのであった」

そう呟いて
この物語を無理やり結ぶしかなかった

~模範解答の存在しないエピローグ~
それでも容赦なく時が、人が流れゆく世界で
作家の肉体が朽ち果ててなお
連綿と続く物語……すなわち彼の残渣が
べっとりこびり付いたページが在る

人はそれを 本屋で気軽に手に入れる。

彼の想いと時間を閉じ込めた罰として
沈黙少女は今日も本の中で
息をひそめて凍えている

虚々実々、めくるめく夢物語も流れ星も祈りの声も
真実と偽りの境界に浮遊する垂れ糸に過ぎないのである。

~あとがき~
虚構も気が遠くなるほど重なれば真実色に近づきますが、
決して虚構以上には成り得ないことを、どうかお忘れなく。
そしてどんな色かたちをしていようと、
そこに遺された人の『こころ』だけは、
努めて丁重にお取り扱いください。
虚構のミルフィーユが雄弁に人間を騙ることも、しばしばなのです。

これを以て、至って簡単ではありますが、
小説に関する考察を終わります。
質疑応答にはお応えしかねますので、ご了承ください。