透明なゴムボールの現在地

わたくしといふ現象は
透明なゴムボールの現在地です

わたくしの跳ねるところが
アスファルトならば
冷たく固い音を立て
朝露を抱く草原ならば
滑らかに沈黙し
雑踏に紛れたならば
蹴られて踏みつけられて

けれどもうまく汚れられないから
あまり気づかれることもない
それでいて見えないところは
じっとりとした疵だらけ

雨の日は水たまりの隅に浮かんで
ボウフラの愚痴につきあってやり
夜になれば月あかりを吸って
野良猫と星座の神話を編んで
風の強い朝には身をまかせ
ぽん、ぽん、ぽーんと跳ね飛んで
偶さかリズムが歌になる

透明なゴムボールは
そっと握られれば柔らかく
雑に潰されれば無様に
もにゅ、どむっ、ひゅーん、ゆるるるん
色彩も形状も温度でさえ
そのままを映して転がり続ける
どこまでも
いつまでも

流行、記憶、鬱憤、祝福、日常、
わたくしはもちろん知っています
やがてはすべて消えるものだと
だから現在地には歌が必要なのです