ミラーボール

あなたの右目はミラーボールで
だからいつもくるくる回って
ママのご機嫌を伺っている

新聞のラテ欄には
今日も悲しみばかりが
システム化されて掲載されている

「大人になったらぁ」
ミラーボールが逆回転する
「音を立てて倒れましょ」
ダンスホールに降り立つあなたの
「大人になれたらぁ」
悲しみにだけ意味がない

秋です
秋です
SOSのような鼻唄を
ママはキッチンで歌ってる
冷凍庫の奥で眠ってた
アゲハチョウをば電子レンジで
ゆっくりあたためながら

ミラーボールは区役所の
使われていない会議室の隅で
誰のご機嫌も伺うことなく
白い埃と遊んでいる、縷々

ママお気に入りの辞書を引くと
美しさだけが載っていなくて
あなたの右目は気がついてしまう
なんだ、光か。と

あなたの右目は世界を分解する
あなたの右目に世界は分裂する
ミラーボールが止まる瞬間に
地球も自転をやめるだろう

干涸びたアゲハチョウは
乱反射する光に舞う
やがて滅んだ影、羅羅

辞書の「美しい」の項目には
あなたの右目のことだと
書き足しておきますね