六限目 友達
面会室で向かい合って座った。佐宗はにこにこしながら私を見つめている。 「あの……」 私から声をかけると、「なに?」と嬉しそうに佐宗が応答する。「なに?」は私のセリフだ。 「どうしてこんなとこにいるのかって? 気になる? …
面会室で向かい合って座った。佐宗はにこにこしながら私を見つめている。 「あの……」 私から声をかけると、「なに?」と嬉しそうに佐宗が応答する。「なに?」は私のセリフだ。 「どうしてこんなとこにいるのかって? 気になる? …
実習も折り返し地点に入り、内容にも日々の日誌書きにもこなれてきた頃のことだ。朝からデイケアの事務室内が緊迫した雰囲気に包まれていた。 実習の指導教官を含めた3名が、なにやら深刻そうに話し合いをしている。 「いや無理ですっ…
佐宗がぱったりと大学に来なくなったのは、6月に入って間もないころだった。「もたなかったね」「所詮は芸能人のおままごとだったんでしょ」など、好き放題に言われたが、どうもネットニュースに出た記事がきっかけらしかった。 『芸能…
芸能人の自分にまったく興味を示さない彼に、佐宗は却って興味を持ったらしかった。取り巻きたちには目もくれずに、しょっちゅう彼にちょっかいを出していた。 その日は二限が終わって昼食時になるやいなや、大教室の一番後ろを陣取って…
私と彼が付き合っているらしいという噂は、すぐに学内中でささやかれるようになった。噂というのはいつだって、尾ひれをつけて拡散される。私は内心うんざりしながらも、懸命にスルーの姿勢を決め込んでいた。 それでも、おせっかいとい…
「ギリ東京、ほとんど埼玉」というキャッチフレーズですっかりおなじみの街に、私の通う小さな大学がある。学部が社会福祉学部の一つしかない、ユニバーシティではなく、いわゆるカレッジだ。 緑の多いキャンパスは、近所の保育園から園…
社会福祉士:国家資格の一つ。身体上もしくは精神上の障害がある人、または環境上の理由によって日常生活を営むのに支障のある人、困難を抱える人を対象とする。福祉に関する相談に応じ、助言や指導をする。さらに、福祉サービスや健康医…
蒼斗の発した叫び声が滲ませる悲痛さに、朝香と晴也、それに夕実は胸を締め付けられ、息苦しさすら覚えた。 小夜は、残酷な現実を直視しなければならないことに気づき、膝から崩れそうになるのを懸命に堪えていた。扉を開こうと全体重を…
蒼斗の口調はどこまでも冷徹で、告白というよりどこか遠い国の出来事を報告するようだった。運転席の明がスン、と鼻を鳴らし、蒼斗の代わりに礼を述べた。 「まぁ、そういうことなんだ。みんな、聞いてくれてありがとうな」 沈みゆく太…
楓子の不在に、小夜は激しく動揺した。しかし、蒼斗のただならない様子に、それはすぐに押し潰された。 蒼斗は、沈んでいく太陽を射抜かんばかりに鋭く睨んだ。 「……西へ。すべてのことは、道中で話す」 M-07に「蒼斗」という名…