第十七話 許しはしない
透の問いに、美咲はにっこりと微笑んで答えた。 「私は笑っていたいんです。どんなときも。私の笑顔で他の誰かが笑顔になってくれたら、とても嬉しいから」 「悲しいときもですか」 「えっ」 「悲しいときも、美咲さんはそうやって笑…
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透の問いに、美咲はにっこりと微笑んで答えた。 「私は笑っていたいんです。どんなときも。私の笑顔で他の誰かが笑顔になってくれたら、とても嬉しいから」 「悲しいときもですか」 「えっ」 「悲しいときも、美咲さんはそうやって笑…
封書には住所の記載もなければ切手も貼られていなかった。どうやらここに直接投函されたものらしい。透はざわつきを覚えた。忘れるわけがない。これは間違いなく朋子の筆跡だ。家に入ってハサミでそっと端から開封すると、レースをかたど…
美咲が閉店の準備のために店先のランプを消そうと外に出ると、たったかと軽快な足取りでマグが帰ってきた。 「おかえり」 その言葉に呼応するようにマグが鳴いた直後、美咲は人影に気がついた。 「すみません、今日はもう閉店時間で……
端的にいえば、ジェラシーである。確かに若さでは負けるが、自分だって毎日メイクを頑張っているし、最新のファッションだってしっかりチェックしている。なのに、想い人はさっぱり振り向いてくれない。それどころか、いかにあの子を手に…
葉山と香織は、はたからみればカップルのように見えるかもしれない。香織がリードして、傘を並べて夜の散歩を楽しんでいるような。しかし、今から彼らが行おうとしていることは、およそデートからは程遠い。 人目につかない場所を選ぶ必…
篠突く雨の夜に飛び込んできた通報は、遅くまで捜査書類と格闘していた葉山秋広の眠気を吹き飛ばすのに十分すぎた。昼間は子どもたちの遊び場となっている「南なかよし公園」のドーム型遊具の中から、重篤な怪我を負った女性が発見された…
翌日、左手首に包帯を巻いた葉山が出勤したものだから、香織は瞠目した。 「どうしたんですか、それ」 香織はすぐに葉山のもとへ駆け寄った。 「なんでもない。ちょっとした怪我だから心配は無用だよ」 「『ちょっとした』には見えま…
その女性はその場でくるりと一回転して、葉山にふわりと微笑みかけた。 「苦しかったのね。いえ、今も苦しいのでしょう」 浩輔から解放された葉山は、涙を腕で拭い顔を上げた。 「それでいいのよ。苦しいのは、あなたが生きている証だ…
葉山は浩輔の手をするりとかわした。警視庁捜査一課の刑事ともなれば、素人に首元をつかまれたところで造作もないことである。 浩輔に掴まれて乱れた襟元を直そうとして、葉山は「ああ、汚れちゃうか」と手を止めた。 浩輔が睨みつけて…
はるかを元気づけようと香織が提案したのは、ショッピングだった。女子二人ではしゃぐのも悪くないが、より買い物をエンジョイするため、との名目で葉山も同行してもらうことになった。 つまり、下手に隠れられるより目の前にいてもらっ…