八限目 笑いごと
「社会のために役立ちたいです」 「困っている人に手を差し伸べたいです」 こうした志望動機が、自分が役に立つ人間である、自分自身は困っているわけではないといった類の尊大な態度の、他ならない表明である。そのことに気づいている…
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「社会のために役立ちたいです」 「困っている人に手を差し伸べたいです」 こうした志望動機が、自分が役に立つ人間である、自分自身は困っているわけではないといった類の尊大な態度の、他ならない表明である。そのことに気づいている…
夏真っ盛り、大学は夏休みに突入し、私はアルバイトに勤しんでいた。あの日以来、アルバイトが終わると、必ず彼の家に顔を出すようになった。アパートの室内では、牛丼屋を辞めた彼が、緩慢な動作でアルバイト求人誌をめくっている。 私…
佐宗がぱったりと大学に来なくなったのは、6月に入って間もないころだった。「もたなかったね」「所詮は芸能人のおままごとだったんでしょ」など、好き放題に言われたが、どうもネットニュースに出た記事がきっかけらしかった。 『芸能…
芸能人の自分にまったく興味を示さない彼に、佐宗は却って興味を持ったらしかった。取り巻きたちには目もくれずに、しょっちゅう彼にちょっかいを出していた。 その日は二限が終わって昼食時になるやいなや、大教室の一番後ろを陣取って…
蒼斗の発した叫び声が滲ませる悲痛さに、朝香と晴也、それに夕実は胸を締め付けられ、息苦しさすら覚えた。 小夜は、残酷な現実を直視しなければならないことに気づき、膝から崩れそうになるのを懸命に堪えていた。扉を開こうと全体重を…
1 「守りたい」「壊したい」とで揺れているきみの二の腕なんか冷たい 2 殺されるならほっぺたにいい歳をしてケチャップつけたきみがいい 3 ライオンは生存のためだけ殺すいのちの価値を知っているから 4 カレー屋の屋号が変わ…
「ぎんいろ」 ゲリラ豪雨が降るのは、もう毎日のことになってしまった。窓に次々と打ちつける雨粒を、きみはフローリングに座って凝視している。日が落ちてきたのでカーテンを閉めたかったけれど、きみはもうしばらく窓辺にいたい様子だ…
1 好きだから好きと伝えただけだからそんな無難な目を向けるなよ 2 猫の目に大した意味に映らない見た目ばかりが整ったもの 3 叫びたい衝動よりもそのあとの疲労について話しましょうか 4 間違えるのがそんなにも怖いのか深夜…
1 美化されず今日まで共に在った傷こころははだかちゃんとすごいよ 2 反抗をしない者だけあたたかいスープが飲めるここは東京 3 真夜中にこっそりチョコをくれた女性ひと「早く出てきな」お元気ですか 4 正当化事由に貼った付…
僕が彼の姿を初めて見たのは、朝靄けむる病院の入り口の花壇の近くだった。当直明けで、深い眠りにつくことができなかった僕のぼんやりとした視界に、しかしそれは鮮やかに飛び込んできた。 黒のダウンジャケットにジーンズ姿の中肉中背…