第十二話 サイコ野郎
「いい夜だね」 藤城先輩がひたひたと近づいてくる。私は後ずさった。 「星がこんなに綺麗なんだ。そんな恐い顔しないでよ」 ナイフを手元で弄びながら、ニコッと笑う。 「俺の顔に見事に泥を塗ってくれたね」 「何のことですか」 …
「いい夜だね」 藤城先輩がひたひたと近づいてくる。私は後ずさった。 「星がこんなに綺麗なんだ。そんな恐い顔しないでよ」 ナイフを手元で弄びながら、ニコッと笑う。 「俺の顔に見事に泥を塗ってくれたね」 「何のことですか」 …
あれから、何事もなかったかのように、ペンションでの時間は流れた。 肝試しから帰ってきた一同は、好き勝手に部屋でどんちゃん騒ぎをし、その輪の中に美恵もいた。若干、自棄になっているようにも見えたが、そっとしておくことにした。…
「美恵、どういうこと?」 「嫌だ、嫌だよこんなの! 智恵美、助けて!」 「落ち着いて。何があったの。話せたらでいいから教えて」 美恵は首を横にブンブンと振る。 目が血走っている、その尋常ではない様子に、私は何とか彼女をな…
河口湖畔での合宿の夜といえば、お約束なのが肝試しだ。ペンションから歩いて少し行った湖の畔に、乙女の石像があるという。 食事を済ませた一同は、すっかり肝試しに行く気満々だ。 「その乙女の像の頭を撫でると、恋愛成就するんだっ…
「そしていつまでも仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」 読み終えると美恵は、絵本に次々と付箋を貼っていく。 真剣に児童文学を読んでいるのは美恵だけで、他のメンバーはとっくにパーティーモードだ。貸切とはいえ、少しはし…
私たちはほぼ無言でマックの片隅に座っていた。アイスコーヒーを飲み終えた桐崎くんはぽつりと、 「噂なんて気にしないよ」 と言った。表情からは相変わらず、彼の心の中を察することはできない。 「人の噂も七十五日って言うでしょ。…
「何者、か」 私の言葉を吟味するように彼は反芻した。 「さぁ、何なんだろうね」 「……ごめん」 「なんで謝るの」 「いや、なんとなく」 「智恵美は、『なんとなく』が多いよね」 「……」 桐崎くんは、私の、彼氏だ。 「ちょ…
桐崎くんが夏風邪を引いた。熱が38度近くまで上がり、ベッドから起き上がれないという。その一報をラインで受け取った私は、ビタミンウォーターとお粥の材料を持って彼の住むアパートへ向かった。 場所は何となく知っていたが、行くの…
数週間が過ぎて、夏菜子の消息が周囲に徐々に疑われ始めた。元々一人暮らしだった夏菜子は、あまり実家にも連絡を取っていなかったらしく、夏菜子の両親が異変に気付いたのは六月も中頃を過ぎたあたりだった。 「彼氏と駆け落ちしたらし…
ひと昔前、「フロム・ヘル」という映画が流行ったことがあった。切り裂きジャックを題材にした映画で、娼婦の女性が連続して殺されていく実際にあった事件を描いたものだ。 それを知ってか知らずか、とある日の午後にショッピングモール…