12 無意味
ゼロイチは、アオにされるがまま何度もしたたかに体を浴室の壁面に打ち付けられていた。背中の羽が何本も無残に散って、その場の空気を乱すようにふわりふわりと待っている。 「やめるんだ、アオ」 僕の制止に対し、アオはぎろりとこち…
ゼロイチは、アオにされるがまま何度もしたたかに体を浴室の壁面に打ち付けられていた。背中の羽が何本も無残に散って、その場の空気を乱すようにふわりふわりと待っている。 「やめるんだ、アオ」 僕の制止に対し、アオはぎろりとこち…
この世界で認識可能な事象のすべては表裏一体でありシンメトリであると、僕は自分にとっては話すまでもないことを3人に伝えた。 ミズが「じゃあ認識できないものは当てはまらないのね」などと的外れなことを言うので、僕は「認識の可能…
僕の眼球には明け透けな青空が映し出されている。昔、宇宙飛行士と呼ばれたとある女性はこう言ったらしい。 「地球は、青かった」 と。 けれども、今日が偶然そうであっただけで、人類史末期に人間たちが縋ったあらゆる歪んだエネルギ…
アオは慌てて懐からペンライトを取り出し、ほうぼうに散ったノイの残骸たちに照射する。 「ノイ……ノイ!」 アオの呼びかけに応えるように、青白いひかりを浴びた肉塊たちがいっせいに蠢きだす。 「アオは、ノイのことが好きなんだね…
黒く無機質なその機械が数台で4人を取り囲む。僕は喉が張り裂けそうな緊張を覚えたが、それをすぐにほどいてくれたのはミズのこんな一言だった。 「無礼者。機械の分際で。去りなさい」 すると数台の機械たちは電子音を交わしあい、し…
アオが「工場」で見聞したことを話すのは、ゼロイチをひどく傷つけるだろうと思った。しかし、いつまでも隠しておくのも違うと僕は感じていた。 「つまんないと思った」 アオの感想は以上だ。けれどただ「つまらない」のではなく、アオ…
皮をむいたじゃがいもを鍋に入れてひたひたの水を加えてゆでる。じゃがいもが竹串がスッと通る位になったらゆで汁を捨て、火にかけて水分を飛ばす。 その後じゃがいもはアツアツの状態でマッシャーでつぶす。フライパンにバターを弱火で…
僕の異変にいち早く気づいたのはアオだった。 「ケムリ、どうしたの。なんだか苦しそう」 拍動がひどく速くなり、僕は激しいめまいを覚えていた。招かれざる客——ミズの姿が歪んで見える。 キボウの消滅。それは、正真正銘の人類の滅…
その女性は僕が淹れた紅茶を一口飲んで、食卓テーブルとセットの木製の椅子で脚を組み替えた。 「ベルガモットがまるで飛んでる。白湯の方がまだマシね」 「それはどうも」 「褒めてないわよ」 「わかってます」 さっきからノイの様…
「この枯葉の入った缶はなに?」 珍しく僕の家事を手伝っているアオが、掃除の際に見つけたのは小ぶりの茶筒だった。戸棚がわりに使っている、かつて書類を仕舞っていたキャビネットの中にあったため、ほこりをかぶらないでいたようだ。…