第八話 軽率

「幽霊? なんの話かな」 そう言ったのは、他ならなぬ中野だ。真弓は「え?」と目をキョトンとさせた。 「あの、例のイケメンさんの件なんですけど……」 「まぁ、こんな古民家じゃ、幽霊の一人や二人、出てもお…

第一話 心臓の形(一)遺言

……かつて愛した貴方へ。私には一切の恐れるものがなくなり、失うものを失い果てて、ついに自由から逃れなくなりました。すなわち、私が残滓であるということを、他でもない私自身が理解してしまい、この薄汚れた殻…

第七話 ポスター

とある雨の夜、営業の終わったカフェの店内の薄明かりの中に、ぼぉっと彰が現れた。 「やぁ、こんばんは」 マグカップを磨きながら中野が挨拶する。だが、彰はそれに応えない。 「どういうつもりだよ」 「何が?…

プロローグ 告白

その夜の南大沢警察署は、悪質な飲酒運転の取り締まり対応に追われたものの、取り立てて大きな事件も起こらずに一日の業務を終えようとしていた。加えてその年は長梅雨ということもあり、軽微な物損事故を起こす車も…

第六話 そういうこと

空腹で目が覚めた。朝食をロクに取っていなかったから無理もない。コーヒーのいい香りが真弓の鼻腔をつく。 「おはよう」 一階から様子を見に来た中野が声をかけた。 「あ、スミマセン、私、つい寝ちゃった」 慌…

第九話 落下

真弓は階段を駆け下りると、中野に向かってこう言った。 「bookmakerのCDとかって、ありますか」 中野は背を向けたまま、 「あるよ。少し高いところにあるから、脚立を使わなきゃだけど」 そう返答し…

第十話 義務

学生の本分は勉強だというが、授業を受けても、レポートを書いていても、あの日以来、真弓はどこかうわの空で過ごしていた。この日も昼休みに学食でラーメンを食べていたのだが、すっかり麺がのびてしまっている。 …

第十二話 チラシ

『アリスの栞』がある街にある地名、旭町と暁町。ここが朝焼けと夜明けをそれぞれ司っているという伝説は、細々とではあるが若い世代にも受け継がれている。 夜が明ける頃、ハルコは畏まった表情で、旭町のとある神…

第十六話 うにーっ

コーヒーの香りがその場にいる皆の鼻腔をつく。中野はいつも通り静かな佇まいで、一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れている。 「美味しいねぇ」 ハルコがホッコリして呟く。その隣で涼介が、 「やっぱマスターのコーヒ…

第十八話 smile

晴れて(?)bookmarkerのメンバーとなった真弓は、そのことを早速香織に報告した。 「すごいじゃん。学生サークルじゃなくて、いきなりセミプロとか」 「まぁね。なりゆき、っていうか」 「どんな?」…