しゃぼん玉
卯月の手前の日曜日、珍しく雪の積もった私たちの住む街は、少し怖いくらいにしんと静まりかえっていた。マンション四階の窓から外を眺めると、はらはらというよりはぼたぼたと雪が落ちて窓に打ちつけていた。 「うわー、季節外れ」 私…
卯月の手前の日曜日、珍しく雪の積もった私たちの住む街は、少し怖いくらいにしんと静まりかえっていた。マンション四階の窓から外を眺めると、はらはらというよりはぼたぼたと雪が落ちて窓に打ちつけていた。 「うわー、季節外れ」 私…
剥き出しの記憶を眼窩からぶら下げ 気の済むまでぷらぷらさせたならば それが涙になるまで待ってひたすら ごめんなさいをリフレインしようか たくさんの手で解剖された認識が 優しい母の手で丁寧に調理されて 食卓へとスープとして…
桜の花びら舞う下で「おめでとう」と言われて以来、私は常に桜の散ったあとのことを考えているのです。ちっとも似合わなかった制服をやっと捨てられる、とつぶやいたら少しだけ寂しそうな顔をしたアンパン。それが好きだからそう呼ばれて…
1 目的地まであと三歩届かずに三歩ごまかし過ごす生きかた 2 マジシャンの本気の恋は種明かしできないゆえにひどく不評だ 3 夜が天から階段を降りてきて夕焼け抱いたのが動機です 4 行先のわからないバスを降りられずふたりぼ…
「志望動機は?」 同期の中竹佳樹がタバコ片手にだるそうに聞いてくる。山積みになった捜査資料にゲンナリしていた僕はため息をついた。 「就活生かよ」 「社会の平和を守るため、は嘘だろ」 「なんでだよ」 「志望動機は?」 竹中…
1 許可もなく生きてたカエル 許可を取り理科の時間に解剖をする 2 優・良・可じゃなく不可の奥にあるほんとのことを書いてください 3 物故者の欄に確かに載っている私の名前が10ptで 4 涙まで織り込み済みの「おめでとう…
花吹雪すべて忘れてしまおうか 叶わない恋ならいっそ蝶となれ 草の芽とともに天指す無垢な指 花として歩いてゆけと祖母のふみ いさかいも花の下ではほどかれる たんぽぽをたんぷぷという子がひかり ぜんまいの苦さが旨さになる破瓜…
林立の夢を刈り取った手で 優しく微笑むのはやめてよ 背の順が嫌いだったことや 前へ倣えを疑ったことまで よくできましたと言われて あなたは何を私に望んだの 最終バスが去った後で 喪服の女が口笛を吹く 馬鹿だなと笑うあなた…
彼が先月の私の誕生日に送ってくれたガーベラの花が、今朝になって突然一斉に散った。 さしづめ、花の報せとでもいおうか。 一報を受けてから私の日常は、あっけなくバタバタと崩れた。それまでの日々がいかに呑気なものであったか、そ…
少し黄ばんだ表面に 容赦なく叩きつける 春の雨は優しくあり 群れ骨群れ骨群れ骨群れ骨 矮小な讃の残渣と赤血球が 反乱を起こした辛辣な春が 今年もやってきたのですね 群れ骨を掬う者も救う者も 其れに巣食うものもおらず 痛み…