第二十一話 決意と願い

「真弓、真弓ってば」 授業が終わってもボーッと前を見つめている真弓に対し、香織は心配そうに声をかけた。 「大丈夫? ここんとこ、全然元気ないじゃん。バイト、疲れてんの?」 「いや……」 真弓は上の空で、 「どうしよう………

第二十話 花火

夏の終わりに、バンドメンバーで花火をしようという話になった。いい年をしたおじさん二人と成人済みの美容師が、現役女子大生よりはしゃいでいる。「打ち上げは最近、規制が厳しくてね。でも、これならいいでしょ。ホラ!」涼介が自慢げ…

第十九話 自爆

「真弓ちゃん、じゃあさっきのパートをもう一回いこっか」 真弓が中野のボイストレーニングを受け始めて三か月。季節はすっかり夏になっていた。半袖の真弓は元気よく『アリスの栞』を練習している。ハルコのギターに涼介のパーカッショ…

第十八話 smile

晴れて(?)bookmarkerのメンバーとなった真弓は、そのことを早速香織に報告した。 「すごいじゃん。学生サークルじゃなくて、いきなりライブとか」 「まぁね。なりゆき、っていうか」 「どんな?」 「えっと……」 まさ…

第十七話 秋子と彰

彰さん、私と名前の響きが似ていますね。これもご縁と感じています。そんなことをここにしたためても、あなたへの想いが募るばかりでつらいのです。私は元気です。本当ですよ。 庭に植えたラナンキュラスが咲きました。あなたが教えてく…

第十五話 面影

「これは……」 真弓の問いに、中野は意を決して答えた。 「僕の祖母だよ。『秋子』さんだ」 そう答えた。真弓は驚きを隠せなかった。 「私に、そっくり……」 「だからたよ」 「え?」 中野は、もがく彰の方を直視する。 「君を…

第十四話 影

中野は驚いて、また内心焦ってもいた。彰のこんな姿を見られたら、きっと真弓は失望する。そして『アリスの栞』を辞めてしまう。そんなことを考えたからだ。 だから、至って平静を装って、中野は真弓に言った。 「真弓ちゃん。今日はど…

第十三話 存在確率

「彰、大丈夫か」 中野は彰を落ち着かせようと静かに声をかける。涼介は驚いて、「何か、あったのか?」と言うが、しかしなおも彰は取り乱して、いつもよりも低い声で、「春の日に、薄桃色の女が一人、此岸で照れた顔して鼠を屠る……」…

第十二話 チラシ

『アリスの栞』がある街にある地名、旭町と暁町。ここが朝焼けと夜明けをそれぞれ司っているという伝説は、細々とではあるが若い世代にも受け継がれている。 夜が明ける頃、ハルコは畏まった表情で、旭町のとある神社に参詣に来ていた。…

第十一話 パセリ

中野は、真弓に優しく語りかけた。 「真弓ちゃんさ」 「はい」 「恋、してるんだね」 「へっ!?」 意外な言葉に、真弓は首を横にぶんぶんと振る。追い討ちをかけるように、その横で腕組みをしていた彰が、 「典型的な恋煩いだな」…