グリーンスリーブス

紅葉が燃えるような美しさに包まれる景色を見た。しかし彼はそれを「葉の色素が死んだ物質の沈殿」としか認識せずに、薄笑いながら鼻歌を歌う。それは確か、グリーンスリーブスだ。 私はその音色にギクリとして、ティースプーンをテーブ…

回転木馬を想え

容易く祈ってはならないと あれほど言ったのに お前はまた手を組んで 両目をきつく閉じている その隙に僕は薄氷の上で お前の影を盗むのだ お前がこれ以上何も望まないよう それを拒絶するならば 回転木馬のことを想え まわる …

輝き(命名権)

とぷん、とぷん、 君の心臓は面白い音がするね。 ぐらん、ぐらん、 君の自意識はすぐに揺らぐね。 今まで見てきた星の中で もっとも美しいそれには まだ名前がないんだっけ ぱちん、ぱちん、 どこかで何かの爆ぜる音がしている。…

影よ

散々ないがしろにした おのれの影を抱くと そいつはしとしとと泣いており あらためて 可哀想なやつだと思った 鏡で自分を見るとき なるべく微笑むのは そうでもしないと 睨まれることを よく知っているから くたびれた我が影よ…

神無月に添える詩

ボロボロと涙が降る夜は、神無月に居残る祈りを未練と呼ぼう。それだけで救われることもあるから、なんてね。 君は無力だ。青春のやり直しをスクリーンに求めてばかりで、性懲りもなくときめいている。それで満たされるほど単純で簡素な…

血管

こころに血管が通っていたら 私のそれはきっと 太く短くあり それでいて伸縮性に富み 時折ぐるんとうねっては ずどんずどんと感情を吐き出し ぶるると震えることでしょう 寒くて震えるわけではなく 悲しくて震えるわけではなく …

秘密

あなたの寝顔を見るとき、それが真夜中のベッドの上だろうと京王線の中だろうと、私は願わずにいられない。 叶うのなら、もうあなたが苦しむことのないよう、そのままずっと夢の中にいてほしい、と。 伽羅の香りのする欲望は、この季節…

短歌 (非)日常

1 幼な子の見上げる空を飛ぶ蝿の祝福の辞など誰も知らない 2 瞳から落つる涙を受け止めるためだけに傘を持ってきました 3 生きている間限定の感覚に溺れぬわけが見つからないわ 4 左手の薬指には約束が血管を殺し巻きついてい…

短歌 わがまま

1 ドキドキはもうしないかもしれないが安定感は誰にも負けない 2 決断をするときいつも背を押して風さえ吹かしてくれるから好き 3 口下手もここまでくれば芸術で冬が来るのは貴方のせいだ 4 枯れ葉舞う日に貴方がそばにいて微…

短歌 萌芽

1 ともし火の揺れるほうへと進んだらあなたが飾ってある植物園 2 たどり着く場所に双葉が生えていて間違いないと確信をする 3 手のひらの上で踊った枯葉ならつい先だって地球になった 4 あなたたちいつか地獄へ堕ちるわよ ス…