短歌 喫茶店

1 喫茶店 死にたくなると溶けかけの氷を口に含んだ二十歳 2 カウンター席の隅っこで目が合ってキーボードでunmeiと打つ 3 禁煙かどうか聞かれて「大丈夫です」ここでなら泣ける気がして 4 待ち合わせ時間まであと20分…

短歌 花

1 風を受け素直に泣けた夜にだけ銀河の果てに咲く花がある 2 もう二度と会えない人にLINEするしゃぼん玉みな壊すつもりで 3 花束を贈りたい人がいることより重いわけなど知りたくもない 4 花びらを口に含んだ夜のこと忘れ…

1 封筒の切手を丁寧に剥がすのは夢から覚めるのが下手だから 2 クッキーが焼きあがるまで起きないで銀世界だと気がつかないで 3 白線の外側へゆく人たちに手をふり返す冬の夕暮れ 4 イルミネーションの明滅きみがいま壊れゆく…

がんばれもぐら

もぐら、その姿実にもぐもぐしい 穴掘って掘って埋もれて 夕暮れいつだかわからない 漢字で書けば土竜 強そうでしょう 強そうなだけなんです もぐら、小倉 おぐら さんちの庭に穴を掘る 土かいてかいて疲れて 夜明けが何処だか…

カーテン

1 カーテンのふくらむ部屋で唇のカサつき舐めるきみだけの刻 2 鬼ごっこごっこのままで終われないぼくらの結節点を誤魔化す 3 遮断機の向こうで笑うきみを見た花束は死骸の寄せ集め 4 帰ったら熱いお茶でも飲みましょう何もな…

寂しい倫理

1 倫理って風鈴の音からとったって嘘だとしてもなんか嬉しい 2 常夜灯消せない夜に寂しさを打ち消すために手に取るスマホ 3 ひまわりが咲んでた畑に寂しさがバレないように拍手を送る 4 倫理をろんりと読むのは間違いじゃない…

短歌 あいらぶゆー

1 アルペジオ星を追った夜 切なさを携え息する獣が二匹 2 流星は儚いねって泣くきみの保障されない明日を想う 3 なぜ星が美しいのか(命から最も近い場所にあるから) 4 星がいまきみのなかでハレーションする それを人々は…

宇宙

1 銀紙に銀河をひとつ閉じ込めてゴミ箱に狙いを定める夜 2 デニールのうすいつま先でいじくる果てるためあるあなたの宇宙 3 宇宙人だとしてそれが問題にならないくらいあなたが好きよ 4 口開けたままでは「む」って言えなくて…

私に手紙をください

見上げれば半月が もう半分の可能性を殺しながら ぽっかりとろりと孤独を浮かべて 見下ろせば人々が 内臓と骨と血と神経を運ぶため あうあうと喘ぎながら歩いている 位置情報をオフにして Wi-Fiから逃れて 野鳥の飛影に目を…

短歌 満ちてゆく月

1 月明かり左手首の傷痕に名前を付けた 消えないように 2 偏差値が偏見差別の値だと気づいた人に満ちてゆく月 3 月のない夜にランパトカナルする いのち、いのち、いのち、いのち 4 搾取する/される関係 ハウツーのどこに…