短歌 恋人

1 と指チョコレート越しにあわせて買ったばかりのシーツに沈む 2 耳たぶに触れるときまだためらいがあるからきみをまた好きになる 3 屈服はきみにだけする もし明日世界が終わると脅されたって 4 きみが好きな味のポテチは売…

1 真っ黒な雲を呼んだのきみですか 高確率で僕は打たれる  2 紫陽花をひとつ手折って差し出せどそれは死体と言い捨てるきみ  3 鉛筆をナイフで削る音がするごめんなさいを言いそびれてる  4…

1 あなたから借りた詩集を開けずにうずくまってる金曜の午後 2 蝶々の不規則な軌道を追ううちやがてあなたにぶつかる視線 3 陽光のあたる窓辺でふたりして黙って揺れる雷を待つ 4 「深呼吸したほうがいい顔色があまりよくない…

短歌 家電

1 扇風機に「あー」と向きあうきみをそろそろ火星人が迎えにくる 2 ペアリングできない機器ももしかして孤独なんかを知るのだろうか 3 前髪の分け目を変えた朝なのにきみは生きるのが下手なままか 4 花柄と水玉が好きだといえ…

短歌 喫茶店

1 汗をかくグラスに遺るきみのあと たった二文字が言えなかった 2 頬杖をついて見つめる先にいる大きな蝿にさえ嫉妬する 3 本当は左利きだと知ってたらきみのひだりを支配したのに 4 曇天が晴れ空に化け何事もなかったように…

短歌 部屋

1 音もなく暮れる小部屋の片隅で誰かの悲鳴に耳を澄ます 2 わからないことはスマホで調べようたとえばきみの好きな人とか 3 指先で燕の飛影おいかけてふちに当たって寂しくなって 4 どこかしらから聞こえくるサイレンはどこか…

短歌 色彩

1 太陽を赤色で描く子どもらの瞳に映るはじめての嘘 2 「本当に削除しますか?」の画面に選択肢が「はい」と「Yes」しかない 3 風を受けはためくTシャツの裾っこを触ってもいい季節ですよね 4 不安から恐怖に変わる瞬間の…

短歌 街

1 「飛べるはず」から「はず」だけが剥がれ落ち中央線の線路見つめる 2 他人事として過ぎてゆくカタコトン線路の温度に気づかずコトン 3 ふたりして夜に食べられそれからは街灯の蛾にさえ怯えて踊る 4 もし5月に雪が降ったら…

短歌 許さない

1 頬杖をついて読書をしてるけどさっきのことは内緒なのかな 2 それ以上優しくしたら許さない本気で私を壊しにきてよ 3 わからないことほど面白いけれどきみを超える謎なんてない 4 よく熟れたいちごをひと口で食べ切る潔さな…

短歌 打たれる権利

1 黒い猫として生まれて疎まれてそれでも雨に打たれる権利 2 街じゅうに傘の花咲く 正しさはどこにもないと数人気づく 3 銅像の濡れそぼっても堂々ともろてを伸ばす先の暁光 4 夜が明けてまだしとしとと降ってたら私たちきっ…