漆黒の獣

目の前の花瓶に陽光が通過して、この白い壁面にプリズムが差したところで、きみはその色彩に全く興味を示さない。 僕は、考えている。朝起きてあくびをするとき、この部屋のカーテンを開けるとき、朝食の卵をサニーサイドアップにすると…

眠れない夜に揺れるフェイクパールのピアス

「眠れない」 彼のその一言で、深夜のサイゼへ繰り出すことになった。玄関を出てすぐ、師走の冷えきった空気が頬を鋭く刺したから、ああ、ちゃんと冬なんだな。なんて当たり前のことを、しみじみ思ったりした。 サイゼが24時間営業を…

15 終止符

あれからどれくらいの時間が経ったのか、そのこと自体を考えなくなっていた。 何日、何ヶ月、いや何年経ったのだろう。僕が「あの日」のことについて思考を至らせたのは、その年の年末(とされる時期)の寒い日に、ゼロイチが編み物の編…

14 因子

動機など、どうでもよかった。ただ僕たちは、目的を定めず生きることを目的とし、いずれ訪れる「死」に焦がれて、自らそれを手繰り寄せることだけを希求しているのだから。 ノイはあれ以来、鳴き声を発さなくなった。アオは心配して餌を…

13 卵

厄介なことになった。リョクウを解毒した際にミズの血液を大量に摂取したアオに、不要な感情が芽生えてしまったのだ。 不要な感情、それはいわゆる、恋愛感情というやつだ。 ミズは相変わらず平然と下着姿、ときに全裸で自由に読書など…

12 無意味

ゼロイチは、アオにされるがまま何度もしたたかに体を浴室の壁面に打ち付けられていた。背中の羽が何本も無残に散って、その場の空気を乱すようにふわりふわりと待っている。 「やめるんだ、アオ」 僕の制止に対し、アオはぎろりとこち…

11 雨

この世界で認識可能な事象のすべては表裏一体でありシンメトリであると、僕は自分にとっては話すまでもないことを3人に伝えた。 ミズが「じゃあ認識できないものは当てはまらないのね」などと的外れなことを言うので、僕は「認識の可能…

10 鎖

僕の眼球には明け透けな青空が映し出されている。昔、宇宙飛行士と呼ばれたとある女性はこう言ったらしい。 「地球は、青かった」 と。 けれども、今日が偶然そうであっただけで、人類史末期に人間たちが縋ったあらゆる歪んだエネルギ…

9 遺伝子

アオは慌てて懐からペンライトを取り出し、ほうぼうに散ったノイの残骸たちに照射する。 「ノイ……ノイ!」 アオの呼びかけに応えるように、青白いひかりを浴びた肉塊たちがいっせいに蠢きだす。 「アオは、ノイのことが好きなんだね…

8 名前

黒く無機質なその機械が数台で4人を取り囲む。僕は喉が張り裂けそうな緊張を覚えたが、それをすぐにほどいてくれたのはミズのこんな一言だった。 「無礼者。機械の分際で。去りなさい」 すると数台の機械たちは電子音を交わしあい、し…