第十六話 さよなら
もともと得意だった英語や現代文はもちろんのこと、ずっと不得意だった数学に「83」、物理に「79」、化学に「86」という高得点を朋子が獲ったことに、透は驚きを隠せなかった。 透が伝えたのは勉強そのものというより、勉強に楽し…
もともと得意だった英語や現代文はもちろんのこと、ずっと不得意だった数学に「83」、物理に「79」、化学に「86」という高得点を朋子が獲ったことに、透は驚きを隠せなかった。 透が伝えたのは勉強そのものというより、勉強に楽し…
クリスマスイブは人々にえもいわれぬ高揚感を与える。街なかは昼間からイルミネーションとクリスマスソングで賑々しく盛り上げられ、通りを歩くカップルはほとんどが手を繋いでいた。いつも座って空の表情をスマートフォンで撮影する公園…
ヨーコにはひとつ気がかりがあった。期末テストで好成績を出して以降、朋子がどこか浮ついたような、落ち着かない様子でいることが増えたからだ。 客のオーダーを間違えることもしばしばで、そのたびに美咲が謝るのだが、その隣で当の朋…
ゴミ捨てのために裏口のドアを開けて一息つくと、吐いた息が真っ白になった。あっという間に指の先まで冷たくなったので、暖めようと手をこすりあわせた。 ふと空を見上げると、夕暮れ時ののどかな空に滔々と雲が流れている。あー、と思…
香月が働いている介護老人保健施設「とまりぎ」のデイケア部門では、月に一度「お出かけ企画」というものがある。これは利用者たちの合議で外でのレクリエーションを楽しむ内容を決めるプログラムで、11月は和食のファミリーレストラン…
封書には住所の記載もなければ切手も貼られていなかった。どうやらここに直接投函されたものらしい。透はざわつきを覚えた。忘れるわけがない。これは間違いなく朋子の筆跡だ。家に入ってハサミでそっと端から開封すると、レースをかたど…
コトノハのある街は外国人観光客も多く滞在する。都心へのアクセスが良好な上にホテル代が比較的安価だからだ。コトノハにも時折やってくることもあるが、これまではメニューの指さしか単語の羅列、ボディーランゲージでどうにか応対して…
かえでメンタルクリニックはJRの駅から徒歩圏内の雑居ビルに開業されており、心療内科と精神科を標榜している。 透が紹介状と市役所から送られてきた受診のための医療受給者証などを受付に出すと、医療事務の女性がにこりと微笑んで「…
数日前のことだ。定期的に自宅に訪問する若手のソーシャルワーカーが、透の提出した『日課のチェックリスト』中の11月27日(火)と11月30日(金)の欄に「コトノハ」という走り書きを見つけたので「これはなんですか?」と質問を…
透のただならぬ雰囲気にこれ以上は問うべきではないととっさに察した香月は、「そうなんだ。まあ、いろいろあるよね」とはぐらかすように笑った。透は跳ね上がってしまった動悸をどうにか抑えるため、ぎこちない手つきで懸命に胸元をおさ…