第一話 ピザトースト
プロローグ 激しい雨の後にこそ、空には虹がかかる。そして、見上げないと、その虹は見ることができない。 夜明け前が最も暗いと言われるように、光の射す一歩手前がきっと、最も苦しいときだったりする。それを抜けたからこそ、世界は…
プロローグ 激しい雨の後にこそ、空には虹がかかる。そして、見上げないと、その虹は見ることができない。 夜明け前が最も暗いと言われるように、光の射す一歩手前がきっと、最も苦しいときだったりする。それを抜けたからこそ、世界は…
季節は確実にめぐりゆき、桜の季節がやってきた。見事な桜並木がこの小さな街にも存在する。コトノハから歩いて10分もすればたどり着ける、多摩川支流の小さな川の河川敷だ。 「場所取り、ありがとうございます!」 元気いっぱいの美…
バレンタインデー当日、美咲と透とで作ったチョコクッキーが完売して、プレーンも残り一袋となった夕方ごろ、コトノハに郵便配達の人がやってきて、小包を届けてくれた。 「イタリアからです」 差出人欄には、「Yoko Kuromi…
真冬の一大イベントといえば、バレンタインデーだろう。コトノハでも美咲の提案でチョコクッキーを置いたところ、若い女性を中心に売れ行きは好調だった。 クッキーを焼くのが美咲。そしてリボンをかけたり値札を張ったりするラッピング…
美咲は夜空を見上げて、ふっと白い息を吐いた。 「笑顔でいるとね、強くはなれないかもしれないけど、自分のことをもっと好きになれる気がするんです」 点灯した公園の街灯の光が、美咲と透、そしてマグを穏やかに照らしている。 「沢…
透の問いに、美咲はにっこりと微笑んで答えた。 「私は笑っていたいんです。どんなときも。私の笑顔で他の誰かが笑顔になってくれたら、とても嬉しいから」 「悲しいときもですか」 「えっ」 「悲しいときも、美咲さんはそうやって笑…
もともと得意だった英語や現代文はもちろんのこと、ずっと不得意だった数学に「83」、物理に「79」、化学に「86」という高得点を朋子が獲ったことに、透は驚きを隠せなかった。 透が伝えたのは勉強そのものというより、勉強に楽し…
クリスマスイブは人々にえもいわれぬ高揚感を与える。街なかは昼間からイルミネーションとクリスマスソングで賑々しく盛り上げられ、通りを歩くカップルはほとんどが手を繋いでいた。いつも座って空の表情をスマートフォンで撮影する公園…
ヨーコにはひとつ気がかりがあった。期末テストで好成績を出して以降、朋子がどこか浮ついたような、落ち着かない様子でいることが増えたからだ。 客のオーダーを間違えることもしばしばで、そのたびに美咲が謝るのだが、その隣で当の朋…
ゴミ捨てのために裏口のドアを開けて一息つくと、吐いた息が真っ白になった。あっという間に指の先まで冷たくなったので、暖めようと手をこすりあわせた。 ふと空を見上げると、夕暮れ時ののどかな空に滔々と雲が流れている。あー、と思…