PROLOGUE 僕らは幸せです。
「あ、ああ――……」 彼の意識が揺らぐ。認識する現実が、彼を嘲りだす。 世界に刃を向けられ、彼は、日常から堕ちる。 どこかの世界の密やかな妄想 ただ、そこに居るものが、在るものが、彼にとっての揺るぎない真実。たとえそれが…
「あ、ああ――……」 彼の意識が揺らぐ。認識する現実が、彼を嘲りだす。 世界に刃を向けられ、彼は、日常から堕ちる。 どこかの世界の密やかな妄想 ただ、そこに居るものが、在るものが、彼にとっての揺るぎない真実。たとえそれが…
世界の終わりのその後に、ふたりは朽ちた一軒家で小さなレストランをはじめた。決してお客さんは来ない。それでもふたりはキッチンに並び、残された時間を丁寧に暮らしている。 「コロッケは意外と、手のかかるメニューだね」 じゃがい…
決して、俺を忘れるな。 運命の日、あまりにも澄み切った夜空に、星々が瞬いている。太古の人々は、その配置に物語を与えて意味を紡いだ。誰もそれをただの化学反応だと切り捨てなかった。 一種の浪漫などに准えて、愛や正義を謳ってき…
彼女は僕に、絶対的な孤独を与えてくれました。僕がそれをどうして愛さずにいられますか? あの冬の日、彼女は永遠になった。即ち僕の孤独が永遠になったということです。孤独は『1』。死は『0』。僕が彼女と交われば『0』になってし…
そういえば、彼女について何も知らない自分に気付いた。彼女の名前は知っている、笑顔は知っている、怒った顔も知っている。死に顔さえ知っていた。けれど、それ以上の何も、彼は知らなかった。十分じゃないかと笑う自分もいる。 それで…
愛や正義は人間の大好物ですからね。人を裁く時も判ずる時も、そこに愛や正義があれば、否、存在などしていなくてもそれを謳えば、どんな利己的な感情も合理的な凶器になる。そのことを君はわかっていましたね。わかっていて、利用しまし…
「宝飯玲子は、ここにいるわ」 ミズはそう断言して篠畑を見据えた。篠畑は言葉を途切れさせたきり、その場に立ち尽くしている。ミズはしてやったりとばかりにニヤリと笑った。 彼女の狙いはただの腹いせだ。こんな舞台で踊らされたこと…
若宮は動揺を必死に抑えながら、再び咳払いをして「おはよう、葉山君」と挨拶をした。途端に背後から、痛い視線の集中砲火を浴びるのだが、若宮は毅然と無視する。 葉山は一歩一歩ゆっくり若宮に近づくと、持っていた花を若宮の机の上に…
「俺を信じるか?」 彼は相手の目をまっすぐ見ながら、というより相手の目をえぐる様な鋭い視線でそう問いかけた。 「それとも、世界を信じるか?」 「……!」 捕えられた相手は、突き付けられている凶器と思しきものをどうにか除け…
春の初めの暖かい風が、彼の頬を掠める。彼の足もとには、芽吹き始めた新しい命たち。朝露を受けてしなやかに伸びる、その葉々を邪魔するように一つ、影が転がっている。朝日を浴びたそれは、先刻、ただの肉塊と化した。 逆光を浴びて薄…