第十二話 サイコ野郎
「いい夜だね」 藤城先輩がひたひたと近づいてくる。私は後ずさった。 「星がこんなに綺麗なんだ。そんな恐い顔しないでよ」 ナイフを手元で弄びながら、ニコッと笑う。 「俺の顔に見事に泥を塗ってくれたね」 「何のことですか」 …
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「いい夜だね」 藤城先輩がひたひたと近づいてくる。私は後ずさった。 「星がこんなに綺麗なんだ。そんな恐い顔しないでよ」 ナイフを手元で弄びながら、ニコッと笑う。 「俺の顔に見事に泥を塗ってくれたね」 「何のことですか」 …
藤城先輩の『自殺』の悲しみもまた、あっけなく忘れ去られた。美恵といえばあれから少しナーバスになっていて、大学も休みがちになっている。 私は美恵を心配はしたが、しかし、そんな資格は自分にはない気もしていた。 夏休みが終わっ…
私たちは黙ったまま、スタバの一角に座っていた。ソイラテを一口飲み、ちらりと彼の顔を見る。想像してはいたが、やはり、いつも通りだ。それが、却って怖かった。 「あの、さ」 私はおずおずと言葉を発した。 「聞いた? ニュース」…
嫌だ。こんなお別れ、絶対に嫌だ。 私は必死で彼のシャツの腕の部分をつかんだ。 「べ、別にいいの」 声が震える。 「殺人鬼なんかじゃなくていい。むしろ、そんなんじゃないほうがいい。お願い、ごめん、謝るから、『さよなら』なん…
すべてを聞いた私は、涙を流しながら、彼の手を握りしめていた。 「何も……何も知らなくて……私。ごめんね」 「どうして智恵美が謝るの」 「だって私、完全に勘違いしてて……夏菜子のことも、全然わかってなかった。そんなことがあ…
彼は私の前からいなくなった。事件は彼の告白によって急展開し、即日、彼は逮捕された。それでも、今も彼は私の彼氏で、大切な人だ。 そういえば、二人の写真を一枚も撮っていないことに、今更になって気づいた。スマホを漁ったが、どこ…
入学してすぐに夏菜子が声をかけてきたという。積極的な性格だった彼女は、新歓コンパで同じグループだった桐崎くんに一目惚れしたらしい。 告白こそしなかったものの、すぐに連絡先を交換し、LINEなどで会話をしていたという。 桐…
「確かに、大橋夏菜子を埋めたのは僕だよ」 そう、でしょう? 「でも、彼女を殺しただなんて、僕は一言も言ってない」 !? 「大きな間違いがあるみたいだから、ちゃんと伝えるよ。地中にははるか太古からの記憶が眠っている。それを…
「美恵、どういうこと?」 「嫌だ、嫌だよこんなの! 智恵美、助けて!」 「落ち着いて。何があったの。話せたらでいいから教えて」 美恵は首を横にブンブンと振る。 目が血走っている、その尋常ではない様子に、私は何とか彼女をな…
ひと昔前、「フロム・ヘル」という映画が流行ったことがあった。切り裂きジャックを題材にした映画で、娼婦の女性が連続して殺されていく実際にあった事件を描いたものだ。 それを知ってか知らずか、とある日の午後にショッピングモール…