カテゴリー: 現代詩

私の庭(という強制的沈黙)

遠くで破裂音がして

目が覚めた青い夜は

寂しくなってもいい

冷たい廊下を裸足で歩いて

自分の首を絞めようとして

でもできなくて泣きました

カチューシャが似合わなくなって

夢の国だけでワンピースを纏って

どんどん静かになっていく私の庭

月、影、重なって、揺れる、

凍てついた扉を開け放って

破ったばかりのカレンダー

紙飛行機にして飛ばしたら

旋回してそっと沈みました

もう一度首を絞めようとして

爪を切ったばかりの両の手を

首元で交差させてみたけれど

マフラーみたいに巻きついて

とてもあたたかくてよかった

紙飛行機、地球、地平線、私の庭、

ゆれるゆれるゆれるゆれて

ざわつきざわつきざわつき

何もかもを過去形に肖って

幸せだったねって吐き捨て

本当に幸せになっちゃった

近くでオルゴールが鳴って

白い朝に目が覚めたのなら

悲しくなっていいでしょう

私の庭はどんどん静かになって

どこかのだれかの検索候補には

今日も寂しい言葉ばかりが並ぶ

上手く生きられない件ですが

そもそも上手く生きる必要が

どこにあるというのでしょう

——まだ大丈夫——

——だ大丈夫——

——大丈夫——

——うん——

——う——

———

——

ゆめからさめたら

おにわをおそうじ

なにもかもすてて

じぶんをあいして

いきていきましょ

いいこなんだから

いうことをきいて

もうだまっていて

ポインセチア

迷妄をさらけ出した空は
雲をさらって落暉を隠す
真冬に凍える部屋の隅で
漸くまぶたを開いたのに
光を求め扉を開けた途端
冷たく降り注いだ視線が
私の脳天をずんと直撃し
紅い徒花を咲かせるのだ

私の思考はやがて白濁し
流転する感情が目の前で
あられもない迷彩を映し
色彩を失った掠れた声で
何度目かも知らない幻と
虚無が支配する夕まぐれ
窓ガラス越しの風景には
訥々と存在する街の灯り

競合し続ける歪んだ視界
目 目 電球 星 目目
モノクロだけが正しさだ
かりそめこそが真実だと
教えてくれた人が今もう
新宿駅南口でぐるぐると
電飾を全身に巻きつけて
烏兎を睨め付けては踊る

もう楽しいことしか起こらないのだ
私の脳天に咲いた花にさえ名があり
都営新宿線のなかでカップルがふと
ポインセチアは綺麗だねとこぼした
綺麗だけれど綺麗なだけは嫌だねと
微笑みあった交情を見届けた私には
喪心の証明がどうしても必要なのだ
神さまの過ちを心待ちにする資格が
免許が権利が筋合いが私にあるなら
それらすべてを焼却炉に放り投げて
何事もなかったように手を合わせて
さようなら、の言葉を添えて脳天の
ポインセチアごとメリークリスマス

心優しい人から踊りだす
電飾まみれの阿呆として
通りすがりの烏兎たちは
綺麗ね 綺麗ね ああはなりたくないね
目 目目 真実なんて何処にも 電球目
どこにもいない私のポインセチアを見て
なんなら幸せだなんて自称さえするのだ
頭賢しい人だけが居残る
地球はどんどん鈍麻する
誰も烏兎の姿を知らない

綺麗ね 綺麗だね
でもそれだけだね
誰でもいい 早く
私のポインセチア
否定してください

ラドリオ

息を止めないと
泳げない僕らだから
呼吸とは足枷のことだ

大空を飛んでみたいと
翼ばかり欲しがる僕らは
神さまのただの誤算だ

息を止めないと
苦しくなってしまう僕らの
息苦しさはもはや喜劇だ(笑え)
息を止めないと地球に還れない
地球から見放された人々が
地球を大切に!などと喧伝して
冬の落暉と一緒に
沈んでいく ばいばい

見送る僕の傍らには
もう何も受信できないラジオと
ちっとも音の出ないハイハットと
呼吸をやめたばかりのラドリオ
お前だけだ 本当に尊いのは
お前だけだ 本当に賢いのは
だけどもばいばい

足枷を失くした人々は
季節の迷子になって
僕の頬を撫でつけて去っていく

風に吹かれると寂しくなるのは
そういう仕組みなのだ
人間とかいう生き物の
どうしようもない仕組みなのだ

ラドリオ、僕はきちんと寂しい
それなのに、まだ足枷は外れそうにない
もしお前まで迷子になってしまったら
この頬に遊びにおいで
僕はとっておきの作り話で
お前を笑顔にしてみせるから

ぴかり

沈黙はあまりにも美しすぎて

怖くなるから破ってしまった

秘すれば咲く花は散りました

夜空に煌めくぴかりお星さま

今年も出逢えたオリオン座も

無常以上に官能的な音を立て

彼方へ沈んでいくのでしょう

お願い置いてかないで

まだ目を凝らしていて

もう待てる自信がない

なぜ、と問われたなら

いいえ、と拒絶をする

そうするしか術が無い

永遠を望んだ愚かさを

責めるのは初冬の風と

他ならぬ己の影であり

約束の長い煉瓦道を

未練で構成された

思い出で汚した

その罰として

私は今一人

瞬きして

静止し

寡言

落下

制止し

呼吸して

きみと二人

その代償なら

永遠を望まずに

いつかの終わりを

じっと見つめている

驕慢な黒猫より賢しく

温める方法も手段もない

この手がもしも許されれば

私はこの夜を越えてゆく

鏡の前でもう一度だけ

笑ってみたいと願う

また強がりだねと

いつものように

お願いだから

からかって

アトリエ

幼拙な傷は容赦のない絶縁体

六弦を抑える指がまだ汗ばみ

古ぼけた腕時計と一緒にいる

秋の空白(やり直しはなし)

孤独は足し算できなかったね

藍色のペディキュアをひどく

気にした日々が過ぎ去って今

アキアカネ舞う密やかな迷妄

「愛しい」が「悲しい」に聞こえる虫の声に

力いっぱいに唇を噛むばかり

残酷に限りなく近い星ぼしと

揺らいでいる視界と意識とが

遠くなる何もない(何も)

秋風を頬に受け目をつむれば

滅びた者たちの歌が聞こえる

選択肢を失くし叫ぶことさえ

できないで喘いでいる者たち

後悔だけがきれいな額縁の中

きれいね、きれいねって皆が

私以外展示されている地球と

いうアトリエは宇宙を彷徨い

どこへ向かっているわけでも

美しいものは美しいだけで罪であると

ただただ静かに心は泣いているけれど

笑い声を挙げる者だけが巣食われるの

明け透けな嘘がどんどん膨張していく

雨の日にクッキーを二十枚焼きました

規定に従って人格がほつれるほつれる

否定、否定、一周まわってエンジョイ

どうせ誰にもなれやしないと

吐き捨て誰かさんの影として

静かに老いてゆければと思う

それ以上は何も望まないから

今夜悲しいニュースを消そう

暗い道に

ぽっぽっぽっ

光の灯る

ぽっぽっぽっ

笑みの咲く

(強制されて)

少しだけ呼吸が乱れてふと気づく

心の中に棲みつく悪魔に同情して

今を汚して居座り痛みと憎しみを

連鎖させている諍いは赤子の頬も

凶器に変えて振りかざす孤独とかシナプスジエンド

悩みを吹き飛ばせる世にも奇妙なファーストフード

あの日から脳裏に焼きついている

青空をひび割れさせた痛みが今も

ダラダラと血液を流し続けいてる

まだラストシーンはやってこない

ブギーサンセット

ガラス瓶を割って青春のノートを引き裂いて思い出の歌を燃やして、それでも無傷の世界を憎んだ。勝手に祝福されている季節が容易く流す光が乱反射して、有象無象の天使たちにウケている。

僕は命を度外視して、悲しいことがあると平気で笑ってみせるんだ。

無と偽善の悪質論は、天使の千切れた羽に問おう。

ママ! 傷だらけのママ! 帰ってきたらご飯にしよう。僕も泥だらけの手でネクタイを緩めるよ。

(気は済んだか?)

そう鏡に問いかけられて、苦笑いしかできなかったよ。

アイキャンフライ

アイキャンフライ、アイキャンフライ、どんなに唱えても悲しいだけなら、せっかく狂った甲斐がない。傷を負えば負うほど輝きを増すから、人のこころというのは厄介な仕組みをしているね。ときにその光に眩んで、大切なものを見落としてしまう。けれど、それを無様だと笑うことなんてできない。誠実なだけでは人は生きていけないから、しばしば無難さが正しさの仮面をつける。だから苦しかったんだね。アイキャンフライ、アイキャンフライ、ほら唇が楽しい。アイキャンフライ、つまりはリーヴミーアローン。狂ったあとで見上げた空にも、変わらずに光は満ちていた。悲しいね。

抹茶ラテ

混濁した季節に
清く正しく堕ちていく貴方は
只管に美しいね

埋めた傷なら芽吹いたよ
小学生に観察されているさ
錆びた悩みなら絡め取ったよ
中学生が興奮しているさ

浅はかな朝は
そろそろ暴かれるでしょ
神様の逃げ出した視界には
居場所を得た魚どもが
ひたひた泳いでる

傷跡だって
嘘だって
嫉妬だって
羨望だって
全部もう舐めとられているでしょ

(手遅れ、ですね)

真実と虚構が混ざっていくの
抹茶ラテみたいにマーブル模様に
その中を貴方はニコニコ泳ぐんだ

隠した舌が重なったけれど
それ、何枚目?
傷つく理由が愛でなければ
苦しくなんてならないのに

渋いんだか甘いんだか
もうよくわからない
魚どもがマグカップの中で
いつものことと言わんばかりに
貴方と一緒に溺れてる

毒りんごのゆくえ

耐えて

耐えて耐えて耐えて

耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて

ぷつん と

ちぎれた糸は用無しになって

ごみ箱に押し込められるけど

今のはあたしの神経ですから

編み直すので返してください

(思い出は美化し放題!

二時間2,980円でいかが?)

なにをしても自由なので

なにを傷つけてもいいと

透明な刃を渡されたけど

結局自分の手首に使って

赤はきれいと思い知った

赤はきれいと思い知った

めでたし、めでたし

さて問題はその後だ

小人どもに撲殺された

魔女の遺した毒りんごが

行方不明になりました

どこへ流通したのか

(誰も知らない)

生まれ変わってこちら、魔都渋谷のスクランブル交差点から、もうすぐ起こる予定の事件を生中継します。

お天気にも恵まれて、台風すら他人事で、本当に、本当に、良かったですねぇ。秋風が心地よくって……

あ、ほら、始まりました!

「やばくね?」

耐えて

耐えて耐えて

耐えて耐えて耐えて、?、耐えて

絶えた 今

鳴り止まないスマホのシャッター

天使たちのランデブーを

手中に収めんとパシャーカシャー

残念ながら苦しみすぎだ

過ぎたるはってやつだよ

なんにもないじゃないか

生まれてきた記念として

勧誘でもしてみるかい?

生きるってのは

素晴らしいって

赤はきれいだって(思い知った)

ところでその指に絡みついている

いくつかはあたしの神経ですから

もう少し丁寧に扱ってくださいね

小夜風に頬を預けて

やっとわかりました

居場所なら売ったし

涙も質に入れました

あたしにとどめを刺したのは

何番目の小人だったのかなら

カメラにしっかり映っている

でもね、復讐だなんて

今どき流行らないから

腥風が訪れるのをただ

にこにこと待っている

あたしただの木偶です

「あ、事件発生です! たった今、予定通り事件が起きました! 犯人は美しくよられた糸の束を無差別に通行人に——」

だからそれあたしの神経だってば

経験値

私が飛散したあとの地に

曼珠沙華がわらわらと咲きました

笑顔の老婆がひとつ手折って

経験値、経験値と呟いて

一輪挿しに収めます

それを窓辺で見ていた少女が

ごくんと喉を鳴らしたなら

真っ赤な花弁たちは一斉に

彼女を撃ち抜くことでしょう

じきに清秋であるからして

誰かさんの眼窩に

ぶら下がった私は

ブランコ乗りみたいに

口笛を吹きながら

窓辺からこの世が

徐々にずれ てゆくのを

上機嫌で見ています

tu tu tu

虚しさ 誰も乗らない遊覧船

虚しさ 安い慰めのフレーズ

虚しさ 誰にも気づかれない闇

虚しさ つまりは割れた風船

曇天を仰げ!

老婆は慣れた手つきで

誰かさんを手折って

何事もなかったように

モノクロ写真の中に

赤色を添える

経験値、経験値と唱えながら

赤色を押し込める

かつての少女は飛散を選び

そのあとに生えた曼珠沙華

曇天にゆらら揺れている

老婆は偉大なるルーチンとして

それを残らず手折っては

部屋じゅうの一輪挿しの口を塞いでゆく

もう誰も喋らないで済むように

モノクロ写真で微笑むふたり

老婆が霧散したあとの地に

何かが咲いたとしても

それをあけすけな愛情でもって

手折る者はもういない

私は誰かさんの眼窩から飛び降りて

清秋の訪れを待つ

誰よりもなによりも

虚しいなにがしかとして

決して望まない結末を知る

目の前に咲き誇る曼珠沙華は

踏みつけた数だけ

経験値が上がるらしいけれど

勇者に指名されたところで

世界を救うつもりなどないので

薄暗い窓辺で彼女たちと

ゆらら揺れています

からから からん

からから

からん

からからからんからんからら
つまらない音を立てて
私の骨が転がりました

もの寂しい音を立てて
からっぽのペットボトルの横に
私の骨は転がりました

名前を知らない蝶々が
私の心臓のふりをして
ひいらひいら羽を休めています

(うるる、る、うるるうるる)

名前を知らない蝶々が
私の眼球として触角を
うるるうるると蠢かしています

(ひいら ら らららら ひいら)

からから

からん

初秋の風が吹けば
私のすべては転がってゆきます
きっとなにごとでもないのです
(風さえ吹けば)

かって骨を覆った
肌に吹きつけくる風はいつだって
そういつだって優しくありました

私の目の前で
私としてからんと転がる骨が
何を欲しがることがあろう

ああそうだ
くぱっと割れたあけびの実を
欲しがることはあるだろう

からから からん

かつて骨を庇っていた
痛みを引き受けてきた皮膚はそう
疲れてしまったのかもしれないね

からっぽのペットボトルが
優しい人に収集されてる
私は一切をなかったことにされて
優しい人に踏んづけられて
丁寧に粉々にされてゆく

蝶はまた知らん顔で飛んで
飛んで知らん顔でまた蝶は

私はついに秋風になり
どこかのだれかの肌に触れ
阿呆みたいに涙を誘う

からん

からから

からん

寂しかろうと、優しい人が、
ちりとりで集めてくれたけれど
私、全然寂しくないんです。

ボート

僕はボートを漕ぐ

他に誰もいない湖面に

流行らない一艘を浮かべ

僕はボートを漕ぐ

他に誰も見ていないから

好き放題に漕ぐ

湖面を波紋が支配する

僕のオールで起こしたそれは

いびつに整列をしていく

波紋はすぐに消えていく

何事もなかったんだと

僕は言い聞かせている

向かいに座る弱り果てたきみと

初めてのデートだ嬉しいよ

きみがあらんかぎりの力で

人さし指を天へと向けた

星でも見ろっていうのかい

その表情も素敵だね

僕がボートを漕ぐその行く先に

水音を立てて何かが落ちた

きみはずっと指を夜空へ向けて

ずっと僕に命令を下している

オールを止めるな、

上を向け、

鍵をよこせ、

チョコミントを好きになれ、

スピリットを盗作せよ、

オールを止めるな、

わかったわかった

あんまり欲張ると

こときれてしまうよ

僕がきみをなだめて見上げた空からは

星になり損ねた蛇たちが

ぼとぼとと降ってきて

湖面を雑に揺らしはじめた

新しい自分との出会い!

(今年は、閏年でしたね)

やり直せるんだ何度でも!

(取り返しのつかない事象しか)

孤独はタバコ15本分の毒らしいね、だから僕はカートンでセブンスターを買うのと引き換えに、当面の間の孤独を失ったのです

(では、蛇たちにはなんと?)

きみたちだって素晴らしいと!

/「平等」ってこういうとき使うんだ/top.html →もしかして「天国への高速エスカレーター」ではありませんか?

僕はボートを漕ぐ

力尽きたきみとの

最後のデートだ嬉しいな

暗い湖底に次々と沈んでゆく蛇たちの

あとを追ってきみは

僕はボートを漕ぐ

時折タバコをふかしながら

僕はボートを漕ぐ

悲しみなんてのはすでに絵画だ

塗り重ねれば売り物になる

僕はボートを漕いだあと

岸辺の蛇たちにタバコの火を

ぎっぎっとを押しつけながら

湖面をじっと見つめた

きみが心から笑ってくれたから

何にもなかったことになる

僕はボートを漕ぐ

何にも起きない湖面に繰り出し

きみと流行らないデートをする