短歌 晩冬

1 芽吹いたら底を知らない恋心 晩冬の空に毅然とあれ 2 「ありがとう」と「愛してる」の言の葉はくすぐったさがとても似ている 3 灰色の冬を脱ぎ捨て街に出よ 小さな春を捕まえにゆけ 4 届かないことは同時に尊さを伝えるこ…

短歌 不思議

1 突然に私の頬に雨が降る 過日に捨てた夢の破片だ 2 セイハロー、天国に向けセイハロー、そろそろ着いた頃だと思う 3 優しさはこころの果実と心得て熟れたらそっと左手でもぐ 4 北風に怯えた日々もあったけどジャズのリズム…

短歌 卒業

1 へたくそな口笛だって構わない 今はひたすら声がききたい 2 桜色の袴が似合う人でした ほんとに淡く散ってしまった 3 嫌いとは愛の同義語 三月の空になびかぬ切りすぎた髪 4 アイシャドウなんてつけない 嘘のない瞳で君…

短歌 アドレッセンス

1 頭からトマトスープに突っ込んで溶けたあなたの味が好みよ 2 あやとりの得意な人は手をあげて そこに神経を通しますね 3 危険だと早く逃げてと叫ぶ君のシルエットがもう笑ってる 4 なにもかも芽吹き始めたせいにして思う存…

短歌 やわはだ

1 さよならを置き去りにした二人して永遠求めツツジを啜る 2 幼な子の黒目に問うてみるがいい ちゃんねるを見る背中はどうか 3 やわ肌についた傷ごとよろしくね あなたの爪が弾く思い出 4 省みることのできない阿呆烏 正義…

短歌 猫

1 偉い人なんていないよ 偉そうな人なら街に溢れてるけど 2 黒猫で親指ぎゅっと隠したらぽつぽつ漏れる死にたい理由 3 終電を逃した猫の迷い子は夜が明けるまで罪を匿う 4 シグナルが点灯しても気づかずに踊り続ける人のプラ…

短歌 初夏

1 ドローンは孤独を壊すためにあるという説だがやはりオバケか 2 ヒーローになれる方法があるなら三回払いで買わせてくれ 3 君だけがわかってくれたほろ苦さ 焦げたキャラメル食んで微笑む 4 水たまり飛び越え進む初夏の道 …

短歌 天使

1 きみ、天使に間違えられることはない? 僕の視力が落ちたのかしら 2 いくら手を伸ばしたとしても届かない君ならいっそ君ならいっそ 3 人びとの関心を集めた途端 立ち枯れていく淡いまぼろし 4 あれこれは全部むかしの出来…

短歌 ピアノ

1 調律が必要みたい 少しだけ生きづらいのはたぶんそのせい 2 無理をしてキスをねだった日もあった 笑い話になりますように 3 形から入るタイプと連弾で触れた指から紡ぐナラティブ 4 口下手で不器用なのもちゃんと好き 理…

短歌 梅雨

1 情報のソースを出せと責められてあなたを好きな理由が滲む 2 傘の花咲く街を行くふたりきり こうも雨では影も伸ばせぬ 3 特急の窓に打つ雨の滴がそれでいいよと囁いている 4 雨の夜に巣食った油断をこれから恋と呼ぼうか馬…