カテゴリー: 短歌

前日

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いちご味といちごは違うそれだけで絶望できた頃に戻ろう

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レモンを家の本棚に隠して本当に爆弾になる半年後

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青春はビタミンCが過剰です風邪を引いても平気なくらい

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くしゃみして一歩だけ死に近づいてすぐに離れてそれでも一歩

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飛行機が頭上を飛んでいることと杞憂の由来を噛みしめている

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なぜきみが今もひとりでいるのかを知りつつ灯る真白い洋燈

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End of your happy 欲しかったハッピーエンドのほんとのところ

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 滅亡の前日とてもよく晴れて僕ら歌ってハイキングした

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その後にも世界は続いているらしく定期券さえまだ有効だ

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嘘みたいな偶然で僕ら生きてきて死ぬことだけは必然なんだ

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はりつめたミルクの膜を破るときスプーンだけが知った背徳

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飽きられたおもちゃを捨てるゴミの日に印をつけてあるカレンダー

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クリスマス過ぎ去ったあと残されたサンタの脱衣を門松に刺す

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平等は大切なこと死ぬことも生きることもみな平等なこと

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明滅をする黄信号の下では生きることが少し窮屈になる

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生活に答え合わせはないという当たり前こそ今は必要

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外すためだけに嵌めているリングはやがて引き金引く指先に

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風船が割れた赤と緑が一個ずつ私も渡り鳥になりたい

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オリオン座 呼吸を乱す理由にはいつもあなたが関与している

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吐く息が白くなったらまたひとつ何を許すかまだ決めていない

日常

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踏切の遮断機が好きあの世とはこの世の続きと教えてくれる

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初恋は片側交互通行の道路みたいにすぐにつかえる

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朝寝坊してもいいって気がついた朝に限って頭は冴える

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助手席は特等席だアクセルを踏んだら消えるボーダーライン

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花束をくれた人いま目の前でみかんを剥いて舟を漕ぐ人

忘れ物

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伸びすぎた爪を切るとき残酷になりきれなくて過去が居残る

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パーフェクト百点満点ですあとは欠けてゆくのを待つだけの刑

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月見そば最初に黄身を潰すきみ なにが大事かわかっているの

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光こそすべてであれと祈るひとまぶたの裏に土砂降りの雨

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宇宙人だといわれても年賀状出しちゃったからなんかごめんね

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このごろはあらゆるものに名がついて薬ももらう だからしんどい

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耳かきをしているときの恍惚は乾いた大地をうるると溶かす

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面影が似てきたことを喜べず笑顔の母に謝れもせず

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雪になれ なれないのなら雲よ去れ 曇天の日には泣けない決まり

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忘れ物なんだよ過去はみなちぎれなかったミサンガなんだ

三つ編み

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いつの間に秋はどこまでいったやら知っている人は黙っている

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三つ編みをほどいて笑う練習をするための部屋は虚無の在り処

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鍵かけた日記の鍵を失くしたらあの日のことは永遠になる

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冬だから飛び降りる場所も寒いしみかんもあるし早く帰ろう

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焼きたてのパンの香りを自転車で運ぶ人こそ幸せになれ

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流行ってるものを知らずに笑えるよ見えないものがこのごろ好きだ

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大丈夫 その一言が悲しくて五線譜からドとソラを消した

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ナポリタンからピーマンが消えたってつまらないものが増えるだけ

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疑惑などないといったら嘘になるサンタがママに何をしたんだ

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三つ編みはもう結ばない ありのまま生きていきます(弱くてもいい)

片想い

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クリスマスまでにかわいくなりたくてワンピに託す時限爆弾

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何してもきみが思考の邪魔をする好きにならせた罪を償え

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既読からはや1時間返信の来ないスマホと沈没したい

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告白の練習をしてクッションを壁に打つのが上手になった

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いつもより濃いめのシャドウばかみたいどうせならきみ笑っておくれ

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手鏡で何度も笑顔になってみる玉座におわす私の孤独

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流れゆく雲もひそかなあやまちも許されるためうつろってゆく

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待ったかな? なんて笑顔を向けられて鼻血こらえたあたしは偉い

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日が沈む前に手と手を結べたら天気予報が外れてもいい

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摩天楼から飛び降りる覚悟決めたった二文字伝えます、いま

輝き

1

手に入れたとたん輝き失くすから大事なものは遠くから見る

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苗字から下の名前になった日の胸の痛みを日記に残す

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口ぐせを笑ってくれた人がいて冬の空にも虹が架かって

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今度いつ会えるかなってLINEして既読を待てずクッションを抱く

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涙とは小さな海とされておりいつも私は救助の日和

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流星が降る夜となりにきみがいて手を繋いだらあの子に会える

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静脈の青さいずれは地に還るときも私の好きな色であれ

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夜つめを切るとき思い出す人が涙の理由になるんだろう

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もし悩みがなくなったらそのことを思い悩むと悩むのだろう

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風まかせ信号も青寄り添って歩幅合わせる日々の輝き

イルミネーション

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まんなかにふたりの指が交差して寂しさ埋めるイルミネーション

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街角のイルミネーションまた少し息が苦しい綺麗なだけで

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明滅のイルミネーションに隠れて笑ったきみの出すSOS

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広告によく知らない有名人 イルミネーションの端は暗い

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電球のひとつひとつが眼球に見えるふたりの小さな正義

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祈りには電飾よりも焼きたてのパンの香りが似合うと思う

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横顔が好きだと気づく横にいることが好きなのだと思い知る

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イルミネーション許されて生きていることを忘れて生きる人々

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もしきみと願いをひとつ消せるならポーラスターに幕を下ろそう

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本当に暗いところは照らさないイルミネーションのほんとのところ

初冬

1
まだ指で疵を数えている人に初冬の風は容赦なく吹く

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吐く息が白くなったら人々は大事な人を想うのだろう

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あんまんを分けあう人がいたとして基本的には一人で食べる

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泣くこともできずに心凍らせたきみのとなりにストーブを置く

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優しさは敢えて問わない態度だと伝えてくれるきみの沈黙

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ひとりだけ置いていかれた紅葉は誰も恨まずただ揺れている

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新しいリップクリーム買うたびに大人の階段のぼれずに冬

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「太陽は寒がりである」日の入りの早まるわけを実は知らない

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冬になるただそれだけを事由とし寂しくなっていいこととせよ

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泣いていい叫んでもいい生きるために生きるという選択もある

晩秋

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流行に乗り香水を買ったけど自分のせいにされたくはない

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散り終えたあとの枝にもブランコの紐が括られ少女が遊ぶ

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あたためたミルクに張った膜ひとつ曖昧なまま破る真夜中

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金魚鉢ひとり寂しくないのかと問うてもゆらら長い前髪

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変わらずにいられないから記念日はひみつをひとつ増やす日にする

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改札の伝言板の告白はほこりをかぶり静かに眠る

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パンケーキとホットケーキ 定義とは意味から不可侵性を奪う

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さよならは何色だろうカレンダーめくる指には知らないネイル

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髪の毛を結ばないのは耳たぶが隠れるように(バレないように)

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落暉ほど輝きが増すことの意味 ケセラセラって笑って泣いた

文房具

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叫んだら届くだなんて嘘でしょうボールペンさえ消せる時代だ

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削るほど鋭利になってく鉛筆は心模様の代弁をする

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落書きを消すためだけに使用する修正液が上塗ったもの

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人を刺すことさえできる道具にてきみに手紙をしたためている

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分度器とパンの袋を留めるやつとにはとても悲しい共通点が

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こんなにも30センチは短くて通勤かばんに収まるものか

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消ゴムで消せないものは愛、絆、ひかり、ぬくもり、検索履歴

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フィルムの別れ話のシーンだけ切り取りできるハサミがほしい

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シャーペンの残った芯の行く末はまるで告げずに終わる初恋

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来年の手帳を買ったいちばんに見る自分のじゃない誕生日

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木枯らしは過日のきみの歌声を遠く遠くへ連れ去ってゆく

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スカートをめくる北風もしかして私は恋をしたんでしょうか

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傾いて置かれたままの写真立てのなかのきみは風を知らない

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落ち葉舞う朝を迎えて別れだけ必然であることに気がつく

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風を切り走る列車は新宿で風そのものになるんだろうな

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焼き芋を分け合う人が待っている北風ももう冷たくはない

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木枯らしに2号がもしもあるのなら春二番だってあったっていい

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そよ風にススキがゆらら手を振って今年の秋も去るのだと知る

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凪いだ日は風の恋しい風の日は凪の恋しいないものねだり

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電話していいですかまだ木枯らしが心の中で荒れているから