ふたり/中指
雪解けは終わりの合図、春 そしてきみは言うんだ 「はじめまして」って 笑顔が似てきたね、と藍子あいこに言われて以来、ときどき鏡に向かって笑ってみる自分がいる。よく夫婦は似るものだと言われるけれど、私たちも例外ではないよう…
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雪解けは終わりの合図、春 そしてきみは言うんだ 「はじめまして」って 笑顔が似てきたね、と藍子あいこに言われて以来、ときどき鏡に向かって笑ってみる自分がいる。よく夫婦は似るものだと言われるけれど、私たちも例外ではないよう…
オリオン座を寒空に見つけた。僕の中で、果たされない約束が白く凝固していく。日々は容赦なく流れていくし、時の波に押し流されて、若さとやらも既に失われつつあるようだ。 「愛情とは自らを定位置に投影するための曖昧で不可解な感情…
秋川浩輔あきがわこうすけは自分に課せられた使命を自覚して以来、規則正しい生活を心がけている。風邪など引くわけにはいかないからだ。 毎晩していた晩酌もやめた。惰性で動画を観るのもやめた。毎朝6時に起きて、新聞に一通り目を通…
秋川浩輔あきがわこうすけは自分に課せられた使命を自覚して以来、規則正しい生活を心がけている。風邪など引くわけにはいかないからだ。 毎晩していた晩酌もやめた。惰性で動画を観るのもやめた。毎朝6時に起きて、新聞に一通り目を通…
ある時、きみは僕の前でシャツを脱ぐのをひどく嫌がった。気分じゃないのかと問うたら、そうではないと蚊の鳴くような声で答える。じゃあどうして、と更にきくことはしなかった。きみの目が、ひどく潤んでいたから。 僕は宮廷作曲家の端…
私が歌えば、人々は皆、自ら滅びを選んだ。私の歌声は、人々を激しく惑わすのだ。 しかし、そのことを私が望んだわけではない。私はただ、歌うことを愛し、歌うことに喜びを感じていただけなのに。 私を捕らえるべきという魔女キルケの…
昶斗えいとの自覚は、夏真っ盛りのとある夜だ。僕、伊知いちが一人暮らししているアパートで、男子二人であほらしい動画を観ながら酒盛りをしていたときのこと。急に黙り込んだ昶斗は、一筋の汗をあごから垂らしながら真顔で、こう僕に告…
窓辺には金木犀の香りまたきみがほどけるきっかけを生む 人の記憶は、匂いと強く繋がっているという。ウェブ記事で読みかじっただけの知識だから、深い理由や正確な仕組みはわからない。けれど、いま私のとなりにいる彼を見れば、そのこ…
テーブルの上にレモンがひとつ。壁に掛けられた時計は、正午を少し過ぎたあたりを指していた。 大事な話がある、と言われたのはいいが、もう何分も沈黙がこの部屋の支配をしている。 ふと、白い鉢が目についた。 「なんていうの」 私…
1 終わったら虹をみようと約束をしたのにすでに虹を見た顔 2 唯一の接点だった虹の根を残らず燃やすために微笑む 3 水たまりアドリブでしか暮らせない僕らを嗤うものだけが棲む 4 関係を問いかける声/続柄欄に無関係とだけ書…