眠れない夜に揺れるフェイクパールのピアス

「眠れない」 彼のその一言で、深夜のサイゼへ繰り出すことになった。玄関を出てすぐ、師走の冷えきった空気が頬を鋭く刺したから、ああ、ちゃんと冬なんだな。なんて当たり前のことを、しみじみ思ったりした。 サイゼが24時間営業を…

宇宙のひみつ

朽ちた枝のように見えるこれは、実は魔法の杖なのだ。そのことを知っているのは、私と黒猫のルルルだけ。 一週間前、私は公園でその杖を見つけた。ベンチの隅に無防備に置かれていたのだ。大発見だった。だから嬉しくて、私はルルルと駆…

分けあった季節

豊穣とは、枯れ朽ちる手前のいっときの喜び。祝福された実りを手にする人々にとって、収穫とは、その喜びを分けあう、かけがえのない作業だ。 幼馴染のフレイは、あどけなさの残る頬に土ぼこりをつけながら、僕の家の果樹園の収穫を手伝…

ありのみのうた

夏休みが始まっても、わたしはあんまり嬉しくない。宿題をたっぷり出されたし、算数ドリルなんて見たくもない。なによりわたしが一番苦手なのが、自由研究だ。何をすればいいのか、全然わからない。 夏休みは「休み」なんだから、勉強な…

イカロスのみた夢

幼い頃の他愛のない話。 空を飛ぶための方法が知りたくて、町はずれの変わり者の家を訪ねたことがあった。 もうお昼ご飯なのに、博士はベッドの中でくまのぬいぐるみを抱いて眠っていた。 「ねぇ。人間はどうやったら空を飛べるの?」…

はじまりのレストラン

世界の終わりのその後に、ふたりは朽ちた一軒家で小さなレストランをはじめた。決してお客さんは来ない。それでもふたりはキッチンに並び、残された時間を丁寧に暮らしている。 「コロッケは意外と、手のかかるメニューだね」 じゃがい…

ファミレス

きみが神さまを自称しはじめてから、いつも私は寂しい。自称だなんて胡散くさいし、そもそもどこから見てもきみは、至って平凡なサラリーマンだ。 なのに、きみは確固たる意志をもって自分が神さまだと信じている。笑えない冗談か、はた…

Odin

オーディン(Odin)はスウェーデンのサブミリ波観測衛星。2001年2月20日、ロシア極東のスヴォボードヌイ宇宙基地からスタールト1ロケットにより打ち上げられた。名称は北欧神話の神のオーディンに由来する。 天体物理学と大…

摩天楼のルール

文明を発展させ続けた人々は、それでも決して届かない天を目指した。あらゆる英知を結集させ、神々の領域を侵さんと目論んだ。己らこそが神であると言わんばかりに、兵器や武器を製造しては力を誇示した。あるいは遺伝子操作を暴走させ、…

ぽんっ!

八岐大蛇ヤマタノオロチは、ほとほと困り果てていた。あれほど恋焦がれてようやく手中に収め、新月の夜に食らおうとしていたはずの櫛名田比売クシナダヒメが、なんと蛞蝓なめくじに、ある朝姿を変えていたのだ。 それが先に喰らった櫛名…