ふたりの一週間 Colorful days go on.

ひとりとひとりとが出逢って、ふたりになった。孤独と孤独とを掛け算したかのようなモノクロの虚しさが、日々を重ねるにつれ、いつしか彩られていく。これはそんな、ささやかで、それでいてどこかが強烈にずれている、「ふたり」の、なん…

こうしてぼくらは

昶斗えいとの自覚は、夏真っ盛りのとある夜だ。僕、伊知いちが一人暮らししているアパートで、男子二人であほらしい動画を観ながら酒盛りをしていたときのこと。急に黙り込んだ昶斗は、一筋の汗をあごから垂らしながら真顔で、こう僕に告…

ほどける

窓辺には金木犀の香りまたきみがほどけるきっかけを生む 人の記憶は、匂いと強く繋がっているという。ウェブ記事で読みかじっただけの知識だから、深い理由や正確な仕組みはわからない。けれど、いま私のとなりにいる彼を見れば、そのこ…

1 空も見ず中指ばかり舐めるひと悲しいことがあったのですね 2 モノクロの虹がかかった空に向け青く染まった舌を差し出せ 3 また空を飛ぶ夢を見た月曜日変なうさぎが隣で寝てる 4 唐揚げにレモンかけるか問題を解くため大空目…

1 ワイパーが動き出したら息を止めせめて時間を忘れさせてよ 2 シネマでは結ばれていたあのふたりブレーキペダル強く踏み込む 3 はじめからわかっていたよ花束は作り笑いを誤魔化すためと 4 味のないガムを噛むとき未練とはや…

白鴉

彼が神を自称しはじめてからも、私たちの生活になにか大きな変化が起きたわけではない。 彼は相変わらず寝坊するし、派手に忘れ物をするし、よく椅子の端にかばんの紐を引っかける。 自称とはいえ神なら予言のひとつもしてみたらどうか…

とある週明け、コーヒーを淹れるきみと

朝、目を覚ますと横にもうあなたの姿はなくて、珍しいことと思いながらリビングに向かうと、あなたはコーヒーメーカーのスイッチを入れているところだった。 「おはよう」 私が声をかけると、あなたは「おはよう」と返事した。考えてみ…

ピンク

たぶん、と前置きしてきみはいう。 桜が満開になったら、綻びは繰り返すと思うんだよ、なんて。 近所のかりんの花が咲き始めて、若葉の隙間から鮮やかなピンクを覗かせているけれど、私はあの色があまり得意じゃないの。 それはよかっ…

短歌 沈黙

1 赤い羽根飾ったひとの何割が鳥の痛みを思うのだろう 2 いっせーの、でジャンプをしよう二分後に特急新宿行きが来るから 3 テーブルに並ぶナイフとフォーク見て「切って刺す」って呟いたきみ 4 花束と拳銃ならば花束を選んで…