それから幾ばくかの月日が流れても、いやどんなに時間が経とうとも、あの時、真実など暴かない方がよかったのかもしれない、と彼女は深い後悔の中にいる。
だから、
「謎は謎のままが最も美味ですよ」
そう言ってのける、ある変人と意気投合した。
「新しい遺体があがってきたの。そっちの『仕事』、頼んだわ」
「せっかく今から紅茶を淹れようと思ったんですけど」
「あのね篠畑。私はこんな狭くてしけった場所に、別に遊びに来ているわけじゃないの」
「人の住居に対して、随分な言い方ですねぇ」
ニッコリ余裕の篠畑の笑顔に、一瞬だけ彼女は彼の「声」を重ねてしまう。
『―――、―――』
もう二度と思い出せない、彼が呼ぶ彼女の名。
「どうかしましたか? ミズ」
「……別に」
彼女は白衣を翻すと、赤いハイヒールを冷たい床に響かせながら独房を後にした。