第十章 沈黙の詩

綾香はふと歌を止めた。

「どうしたの?」

ミズが化粧を落としながら声をかける。

「天使が……」
「え?」
「消えちゃった」


夜も白ける時刻まで、篠畑は一睡もせずに柱時計を見つめていた。柱時計が午前4時を知らせると、彼は頬杖を解き、立ち上がった。

そして一番奥に仕舞ってあった紅茶の茶葉を取り出し、指で摘まんだ。はらはらと落ちる、葉。これは湯がなければただの枯れ葉だ。

注がれるのは、誰の涙だろうか。

世界を憎んだ「彼」の舞台は、主演女優を失い、幕を下ろす。彼の次なる舞台は、いつどこで始まるのか――。

第十一章 因果 へつづく