それから数週間後、その事件の舞台となった近所で小動物が相次いで虐殺される事件が起きた。猫、野犬、小鳥、そして……モグラの遺骸が、現場となった公園のゴミ箱で連日発見された。
葉山は自分の仕事を呪った。遺骸を発見した小学生の男子が、トラウマから吃音になったという話を聞いたからだ。
「この街は、一体どうなっているんでしょうね」
「『気分悪い』って言葉が、使い過ぎで腐っちまうな」
「本当に、気分が悪いです」
「文句ばかりも言ってられねぇ。オラ、交代の時間だぞ」
しかし、この事件はあっけなく終結する。葉山はウンザリした表情をした。
「最近、こんなんばっかだ」
「それは独り言か?」
「いえ……。いや、独り言です」
「そうか」
「………」
二人は前のコンビから交代して現場の見張りを任されていた。曇り空で昼間なお薄暗い公園沿いにある、道路に止めた車の中で、葉山はパンに齧りつき、土竜は煙草を吹かしている。
少年が一人、唐突に公園に現れた。この天候だというのに傘も持っていない。その手にはカッターが握られている。もう片手には、何かうごめくもの。
異変に先に気付いたのは、葉山だった。
「あれ……?」
「どうした。パンに髪でも入ってたか」
「いえ、あの子が……」
「あ?」
土竜が気だるげに顔を上げると、ギリギリ見える範囲で少年のシルエットが、不自然な動きを見せた。どうやら、腕を何度も上下させているようだ。反射的に葉山はドアを開けて駆け出した。
「きみ!」
少年はハッとして動きを止めた。
「何をしている!」
問うまでもない。葉山は我が目を疑った。
少年は、小猫に刃を突き立てていた。子猫は疾うに絶命していた、その遺骸を以てまだ傷を抉られていたのだ。
まるで、生命への凌辱だ。
「なんてことを……!」
葉山はギッと少年を睨んだ。しかし、その視線がすぐ力を失ってしまう。なぜなら、その少年の目には、深い憎しみが灯っていたからだ。
葉山は直感した。理屈ではなく、第六感のようなもので確信した。
「君は……」
彼の悪い予寒は、的中する。
「葉山、何してる」
土竜は少年の抱えるものに気付きながらも、
「そこの御坊ちゃん、とっとと捕まえろよ」
容赦なく冷たい言葉を浴びせる。
「土竜さん、この子――」
「自分の仕事をしろ」
土竜は躊躇いなく少年に接近する。少年は、当然カッターを振りかざす。しかし闇雲に振るわれる凶器が土竜に通じるはずもなく、土竜は利き足で少年を文字通り一蹴した。少年の身が吹っ飛ぶ。
「土竜さん、何するんですか!」
「うるせぇ! とっとと連れて行け!」
葉山は鼻血を出している少年を介抱するようにして連れて行った。
一人公園に残った土竜は、
「くそっ」
スチール製のゴミ箱を派手に蹴り上げ、唾を吐いた。