「君を、抱いていいの」
まるで罪の告白、或いはあどけない脅迫。それは前奏のないポップスのように明け透けだ。
私は許しを与えるように首を縦に振った。
「本当に?」
疑心暗鬼に支配された言葉。信じられないということは一種の弱さだろうに、その証を振り翳して、上擦った声で続ける。
「だって人は皆、失くしたものに執着して生きているでしょう。ラブソングなどを食むのは他に手立てがないからだ。其れが陋劣なのは分かっているよ。それでも、僕の心臓はまだ暫く止まりそうにない」
つまりは、寂しいんでしょう。いいんだよ、別に。抱いても抱かなくても、泣いても泣かなくても。
「知れば知るほど分からなくなるのが恋だとしたら、月兎の目が赤い理由も解せる。しかも、僕は愛について何も知らない」
そう。そうだね、だからきっと、私たちは一緒にいるんだね。
「君を抱いて、いいの」
リフレインは臆病な手つきとなる。いつか私を壊すであろうその指先にそっと触れると、怯えた様子で握りしめてきた。
「……いいの?」
夜の所為にして。その両目で踊る月兎。涙を浮かべて赤くあり、その色彩が私に襲い掛かるまでもう時間がない。
何もかも、夜の所為にして。