新宿駅のハンバーガーショップで、女子高生が二人、シェークを飲みながらダベっている。

私の隣できゃいのきゃいの、実に楽しそうである。

その日、仕事で嫌なことがあった私はやっかみにも近い感情で、彼女らを疎ましく感じていた。

ふん、楽しいのは今のうちだけさ。

そのうち受験だの就活だのに苦しむんだ、せいぜい貴重な青春を、こんな小汚い都会の隅で消費したまえ。

「電車が寒くて、でも外はめっちゃ暑いでしょ? 困るんだよね」
「わかるー! 制服だけじゃ寒いよね」

そんなどうでもいい話題で盛り上がれるのも、若さゆえ。でも、ちょっとうるさい。私は憂さを晴らすために、ノンビリとアイスコーヒーを飲みたいのだ。

ふと、女子高生たちの話題が途切れた。

「あ、やだぁ、リナ。制服のリボンほつれてるよ」

甲高い声で女子高生の一人がリナと呼ばれた少女の胸元に垂れた糸に手を伸ばす。

「本当だ! 気づかなかったぁ、恥ずかしー。ヤエ、ソーイングセットとか持ってる?」

リナのリボンからはみ出た糸を、ヤエは握りしめたまま、

「あるよ。ちょっと待ってて」

と言った。

リナが「ありがとう」と言い終える前に、ヤエは思いきり糸を引っ張った。

スルスルほどけていく、リボン。

しかし、ほどけていくのは、リボンだけではなかった。

私は自分の目を疑った。

リナが、ほどけていく。ヤエは流麗な手つきで糸をクルクル手繰り寄せてゆく。

あっという間にリナは糸の塊と化した。ヤエは慣れた手つきでカバンからソーイングセットを取り出すと、糸にリナを通した。

「これでもう、寒くないでしょ」

物言わぬ、糸。まさに生の、糸。

青春が甘酸っぱいだなんて誰が決めた。私が想像するよりも、それらはずっと湿っていて、私が経験したよりもずっと、生臭かった。

私の目の前でリナを片付けたヤエは、軽やかな足取りでハンバーガーショップを出ていく。

周囲の人間は気づいていないのか興味がないのか、誰一人として騒がない。

ヤエが、街に消えた。

私は気がつくと走り出していた。人混みをかき分けて走って走って、突如侵された日常を悼むために、ヤエを捕まえてその首を捕らえようと、した。

追いつかれたヤエはニコリと笑った。いざ触れてみると、ヤエの肌は老婆のそれだった。

ヤエは私に向かって、手を伸ばして、言った。

「ワイシャツの袖、ほつれてますよ」