あなたの寝顔を見るとき、それが真夜中のベッドの上だろうと京王線の中だろうと、私は願わずにいられない。
叶うのなら、もうあなたが苦しむことのないよう、そのままずっと夢の中にいてほしい、と。
伽羅の香りのする欲望は、この季節にはあなたの扇子の往復から漂う。どんな方法がいいのだろう、あなたをずっと夢の中へ留め置くためには、私に何ができるのだろう。
疲れ果てて今、あなたは私の隣で寝息を立てている。安らかに、眠りについている。そんなあなたの邪魔だけはするまいと、私は自分にまたひとつ嘘をつく。愛しているから、大切にしたいから、あなたに触れられないのだと、平凡な嘘をつく。
今日も熱帯夜だ。汗のにおいがの混じったあなたの寝顔を眺めていると、こんなにも優しい殺意がこの世界に存在するのだと驚いてしまう。
驚いたついでに、京王線の中で私に寄りかかるあなたの肩を私の肩で軽くごっつんこ。あなたは起きない。欲求を愛情に置き換えて、二人の世界は新しいフェーズを迎える。さながら明け透けな夜明けだ。
あなたが起きないよう、私は祈る。神様にではない。本気であなたに祈る。ここ、笑うとこだと思うけど。
「おはよう」
君の期待を裏切り続けることだけが、二人を繋いでいるとしたら、僕は何度でも起き上がろう。平然と朝を、目覚めを迎えよう。
新しい世界とやらが安く売られている現代にあって、君の期待という名の欲求は極めて耽美的だ。美しすぎることは時として罪だと思う。誓いの言葉さえオークションで見かけるんだから。
君の目が悲しそうに細められて、僕の肩に君の頭がごっつんこ。なんで起きたのって、それは君を裏切り続けるためだよ。
化粧っ気のない君だから、どんなにくっついてもファンデーションなんかがこの白いシャツにつくことはないけれど、たまに見せてくれる口紅姿は、一体誰のためのものだい。
僕が君を想うとき、それはつまり君の期待を切り裂くとき、確実に僕に分泌されるドーパミンとエンドルフィン。それを愛と呼んでも、いい加減もういいだろう。
眠りは小さな死だという。僕がその小さな死に囚われているあいだ、君が口紅を塗るのを僕は知っている。香水までつけているでしょう、伽羅の、かぐわしい殺意をまとって。
あなたが/君が
目覚めるとき/口紅を塗るとき
わたしは/僕は
<この世界において>
あなただけを/君だけを
絶対に許さない