「志望動機は?」
同期の中竹佳樹がタバコ片手にだるそうに聞いてくる。山積みになった捜査資料にゲンナリしていた僕はため息をついた。
「就活生かよ」
「社会の平和を守るため、は嘘だろ」
「なんでだよ」
「志望動機は?」
竹中は容疑者を詰問するような威圧的な口調で質問を繰り返した。
「なんで刑事になんてなろうと思ったんだ」
「別にどうだっていいだろ」
……言えない。
合法的に「こういう」画像を見られるから刑事になっただなんて、とても言えない。
僕は資料ファイルを閉じると、表紙部分に貼り付けられている数枚の写真を一瞥した。そこには今追っている事件の被害者が写っている。
——あらゆる角度から撮影された、惨殺死体が。
きみが生きている限り、僕はきみを愛せない。
「どうせ殺すなら、私にしてくださいね」
警視庁捜査一課きってのじゃじゃ馬事務員、宮川香織は僕のデスクにホットのルイボスティーの入ったマグカップをどんと置いて、トレイをひらひらさせながらそんなことを言い放った。
「いきなり何言ってるんですか」
「だって、そういう目をしてるんですもん」
「目?」
宮川は僕の顔をじっと覗きこんだ。
「私ね、父の職場見学で子どもの頃からたくさんの殺人犯に会ってきたんですけど」
「それ、いいの⁉︎」
「さあ。で、秋山さんって彼らと『おんなじ目』をしてるんですよ」
「はい?」
それだけ言って、宮川は鼻歌まじりに足取りも軽く去っていってしまった。
僕はそれが仕事にもかかわらず、いかがわしい本でも隠すかのような仕草でそそくさと捜査資料を片付け、席を立った。
きみが生きているせいで、僕はきみを愛せない。
きみが、生きているせいで。