秋の夜長に眠れない不肖のわたくしは、ベッドの上でただ一人きり、泣けないピエロの真似事をする。
(それを見ていた月うさぎは、紅いお目目でこちらを睨んでいた。)
下手な笑みが嗚咽に変わる夜には、全部お前が悪いぞといっそ責めて欲しかった。気が済むまでとことん貶して欲しかった。
黒の瞳を閉じたまま、阿呆の家鴨の鳴き声を聞く。この夜を越えられない居残り蛍が憐れなら、絶えた交情になんと言い訳すればいいのだろう。
月の相好に魅せられて愚者の吐く血こそが、初紅葉。「きれいね」「きれいね」と狩られるその日を、口を開けてサラサラ笑って待っている。
虫の声に混じってリビングの奥から漏れ聞こえる歌はこうだ。
最初に泣くのは月うさぎ
寂しいからって泣くんだと
次に鳴くのは呑気な家鴨
明日も餌にありつけるから
最後まで眠れないこのわたくしは
静寂の中で首絞めごっこに興じる
今日もまた冷たい夜が無音のままに果てていく。わたくしは幸せなふりをして、取れなくなった真っ赤な鼻を鏡に映してはにこにこ、にこにこ、笑顔の練習に余念がない。
わたくしにも、欲しいものならあった。笑ってくれるかしら。
誕生日が、欲しかったのです。