キャラメル売り

シナプスの存在しない場所に

私はいる

私がいる

あられもない姿で

(キャラメルを舐めながら)

横たわっている

銀紙をくしゃくしゃに

気の済むまで丸め終わった残骸が

私の心臓だったとして

キャラメルを舐め終えた

甘ったるい舌は

嘘をつく支度をしている

口の中で

もちゃもちゃと蠢いて

ああ私よ

醜く育ったこの心よ

感謝をしなければいけない

あらゆる人、人、人らに

感謝をしなければならない

無視をしてくれて

誹謗をしてくれて

ファンファーレを鳴らしてくれて

爪先立ちで無理して笑いかけてくれて

ありがとうございます

ありがとうございます

カラフルな毛糸を与えられた

みのむしの如く私の心臓は

見る影もなく着飾りました

今もなお動き回っては

時折もういいよう、と泣き喚いて

凪ぐことを希求するのです

私は優しくなりたくて

心臓を薔薇風呂に沈める

心臓に棘が刺さらないよう

そっと沈めてやる

御命令を出すのはシナプスではない

ましてやこの錆びついた心でもない

薔薇風呂で手招く女神の首を

精一杯の力で絞めつけて

私は私になりたかっただけなのに

女神は私になりすまして

優しく微笑んでいる

私の心を勝手に耕して

安穏のベッドを設置してしまった

薔薇風呂で心臓が刎ねる

女神が四肢を広げて

ひどく誘惑するのだけれど

どこにも私はいないから

くしゃくしゃの銀紙だけが

シナプスたちを責めている

午後 (キャラメル売りが漸く去る)

薔薇風呂に沈めた心臓を

真っ青な皿にのせて

女神がしめやかに夕餉の支度をはじめた

私はそれを

誰よりも無駄な空間図形として

眺めているばかりなのでした