むら雲が機嫌を損ねはじめた
夏の終わりのはじまりだ
あうええ ときみの唇が動く
八月が今年も終わるそうか
たすけてって言えずに
子どものふりをしたんだね
なにもかも知っていながら
きみのためにできたことといえば
風鈴という風鈴を爆弾にして
鈴虫という鈴虫を機械仕掛けにして
蝉の亡骸に青い絵の具を詰めて
きつく抱きしめてあげるくらいだった
夏はいつだってセピア色に傾く
あうええ あうええ
おえあい おえあいあああ
きみがそうやって懸命に装うのを
聞こえないふりをするために
風鈴は一斉に爆発したし
鈴虫どもはオクターブを下げたし
九日目の蝉はクエスチョンマークになった
あえ あえあお
あえあおお……
きみのためにしてあげられることは
まだあるだろうか
あるとしたら
スローモーションで泣き崩れることや
青い蝉についての論文を書くことや
もしくはなにもしないことだろうな
あいいえる とはどうしても動かない
きみの唇を結局は
唇で塞いだ夜のことをきみは決して
……ううああい