メタセコイア

私にとってメタセコイアは
どこまでも悪辣な他人事で
あなたにとってその大樹は
呼吸そのものだったとして

結局微笑むことを選ぶでしょう

危機を報せるジングルベルが
あなたには只管
おめでとう
おめでとう と聞こえるのは
夜の闇の優しさを誰よりも
肌で理解していたからで
手遅れという言葉にも
きぼうというルビを
過ちという字にさえ
赦しというルビを振って
生きのびようとする

多摩川の水面に影を置いて
遠ざかっていく数知れない
生きていた人たちの記憶を
生きている私が平らげると
あなたは絶えて糾弾をする

メタセコイアを燃やした
私が嘘飴を舐めまわすと
あなたの影が覚束なくて
赦したいことばかりが!
私とあなたに呼吸を与え
また新芽にちゃん付けを
美空にイニシャルを刻む

忘却は生存の戦略であるという前提が
今日も明日も私たちを息苦しくさせる
メタセコイアが繁栄したならあなたは
無音シャッターを幾度も切っておいて
優しくなれない自覚を免罪符に据えて
結局は微笑むことを選ぶのでしょう?

助けてと愛しての区別が
上手くできなくて微笑う
忘却を失った今はすでに
赦されることだけ求めて
メタセコイアの幹を這う
みみずの美しさに
みみずの美しさに
ただ私たちは狼狽えている