「それで、その死オカとかいう不気味な名前のホシは、どうやってあんなたくさんの人数を殺害したんだ」
「ちょっと現場のデカの走り書きが汚くて、数字が読みづらいんですが、少なくとも数百人……いや千人はくだらないかと」
「なんて奴だ……それでも人々はそいつを求めて列をなすんだろ。さながらカルト映画だな」
「映画ならまだいいですよ。大都市部を中心に同時多発でこう事件が起きてしまっては、我々に打つ手はありません」
「殺害方法がすべて同じと聞いたが」
「それが、被害者の数からして、てっきり爆弾やガスを用いたと思ったのですが」
「お前の見解はどうでもいい。そいつはどんな手段を使いやがったんだ」
「窒息です」
「窒息?」
「ピンポイントで気道を塞ぐ手口だそうです。検死にあたった解剖医からは、『ほんと命もっと大切にしようよーガチで』との検死結果が上がっています」
「なぜわざわざ、最も手間のかかるといわれる殺害方法を? 抵抗される可能性が高く遂行率が低いとされているのに……」
「フレーバーが豊富で、飽きがこないからだそうです」
「は?」
「何度も行列に並んででも、被害者たちはバエのために血眼になって奴を欲したそうです」
「蝿、か。なるほど通常疎ましがられる蝿を崇める文脈は、確かにこのご時世、無駄に流行るかもしれないな。だがどうせ、冷めるときはいっぺんだ。ただし、流行より先に死んでしまったら意味がないじゃないか」
「本当にカルトは、厄介ですね」
「カルトは己のことをカルトとは表明しないからな。後ろめたさがあるんだろう。そもそも人間より五月蝿い生き物はこの地球上にいない。川も山も海も、たまの嵐に唸るだけで、こう毎日喚くのは人間くらいなものだ。こんなことを言う俺自身も人間である以上、電線のカラスや駅前のムクドリ以上に喧しいんだろうな。そうだ……自然というのは沈黙できるという意味で、どこまでも聖賢だ。違うか?」
「あ、違いました」
「なんだと?」
「現場のデカめ、あのヤロウ、字が汚すぎる上に余計なことをしやがって」
「おい説明しろ、話が見えない」
タ ヒ ゜オ カ