可哀想

情があるからこそ成り立つ舞台もあるでしょうに……。

情欲と情動の区別もつかなくなった憐れな貴方から昨晩、手紙が届きました。

以下、全文転載―――――

相変わらず飽きずに満たしていますか? 前提として「愛している」はルール違反です。それにしても、何処を探しても見つからないのです。カエルを警醒せしめる言葉はどこに仕舞ってありますか? 生を謳歌し、侮辱し、揶揄するカエルを捕えて日干しにするための、便利な言葉は何処に隠してありますか? きっとそれは魔法の呪文でしょう。さらさらとした素敵な言霊でしょう。二人で交わしたキスの数だけ膨れあがる秘密の味をした湿った文字列でしょう。

いい加減に吐き出しなさい、七色に染まるその自在の唇から、白状しなさい、教えなさい、数えなさい、泣きなさい、吐きなさい。

あー、ほら、カエルが一匹、冬眠途中で目覚めたよ。怒りのあまりに潰れたよ。千切れた手足で踊っている。間違いない、彼らは変態どものなれの果てさ。

今こそ、命を運ぶ方便を得たカエルを糾弾せしめるロマンティックで都合のいい言葉を取り戻さねばなりません。

灰色の解答例として「愛している」は世界最大の嘘です。愛が愛のままでいられたら、誰に何も転嫁しなくたって死を肯定できるのに、と……。

笑ったカエルが憎かろう? カエルのくせにと鼻に付くだろう? 生にしがみついていたいのだろう? ならば今更迷うまい。貴方に愛が最早ただの常套句だと理解できない訳がなかろう。

あああ、あっちの緑のだ、いやこっちの茶色いのだ、向こうで蠢いた影は違うか? いつまで鳴いているんだ、いつまで飲みこんでいるんだ、一滴残らず否定してやるから、ほら、とっとと並びなさい。

悲しくてしょうがない夜には、生まれた時のことを思い出しながらカエルを探しに街に出ます。草叢などの中よりもビル、アパート、電車に潜んでいるのです。笑顔を貼り付けてぴょんぴょんと「幸せだなぁ」と呟きながら、余計な水分を撒き散らして跳んでいます。

正義の悲鳴として「それでも愛してはいけませんか?」→どうぞご勝手に。カエルに成り下がった暁には、御迎えに上がりますので。こんなに月の綺麗な夜にこんなに美しい詩の詠める己の斯様な厚かましさに、我が身を切り裂く思いで筆を置きます。

―――――転載ここまで

…………可哀想に。