(一)
裕明が佐久間に体を明け渡してから、一晩が過ぎた。佐久間は相変わらず美奈子のことを「雪」と呼び、慈しむようにたくさんの愛情を注いでくれる。
佐久間は朝早くラッシュの中央線に乗って立川へと出かけた。美奈子は京王線に乗って神保町の職場まで足を運んだものの、顔色のすぐれなさを心配した小瀬戸にいわれて帰宅ラッシュの前に早退して自宅へと戻った。
それからずっと裕明の帰りをずっと待っていたのだが、午後六時半を過ぎて帰宅したのは、やはり佐久間だった。
「どんな仕事を頼まれたの?」
二人の食卓。そんなに手の込んだものは作れないが、美奈子なりにチョイスに気を配ったスーパーマーケットの惣菜が並ぶ。若宮から受けた依頼について美奈子が尋ねると、佐久間は漬物を口に運んで、しっかりと咀嚼してから飲み込んだ。
「ちょっとしょっぱいね、コレ」
「教えてよ」
「大したことじゃないさ」
「じゃあ教えてくれたっていいじゃない」
「雪、きみには少し刺激的すぎるかもしれない」
「別に大丈夫だよ」
その言葉を、美奈子は後悔することになった。だが、知ることができて良かったとも思うのだ。間違いなくそれは、愛する人のしている行為だから。