8 名前

黒く無機質なその機械が数台で4人を取り囲む。僕は喉が張り裂けそうな緊張を覚えたが、それをすぐにほどいてくれたのはミズのこんな一言だった。

「無礼者。機械の分際で。去りなさい」

すると数台の機械たちは電子音を交わしあい、しばし「会話」しているようだった。少しの後、一台の機械がミズに近寄ってきてこう告げた。

「カミサマノ カノウセイ 12% カノウセイ ヒテイデキズ」
「失礼ね」
「トウトキ御名ヲ ワタシノ トウブニ ニュウリョクシテクダサイ」

ミズの顔色がひきつる。他の何をきかれても動じないつもりであったが、ミズはまさに名前を忘却しているのだ。

「名前なんてどうでもいいでしょう。私は神。ここをどきなさい、金属クズどもが」
「御名 カクニン フカニツキ クジョカイシ」
「なにを――」

ミズが言い終えるより早く、機械たちは一斉に彼女に寄ってたかって真っ赤な熱線を照射し始めた。

「ミズ!」

思わず叫んだ僕を、全身を焼かれながらもミズはこう叱り飛ばした。

「馬鹿! この隙に行きなさい、心配なんてできる身分!?」

目の前で原型をとどめなくなってゆくミズに、僕は言い返す言葉なんてなかった。アオとゼロイチを抱えるようにして、僕は工場の中に突入していった。

工場内部はすえた脂とエタノールのにおいが強くした。天使製造工場。そこは間違いなく、命への侮辱の場であった。

アオもさすがに顔色を変えた。目の前で、ゼロイチと瓜二つの少女「たち」が製造されている。完成した「彼女」は、力なく窓辺から羽ばたいていく。工場を管理しているのは人型の機械、アンドロイドのようで、うまく羽ばたかない「彼女」に鞭を打っている。

その現場を見た僕は、思わずゼロイチを見た。ゼロイチは冷めたというよりは冷たい表情を浮かべ、一言も言葉を発さない。僕らの目の前で、うまく羽を扱えずに墜落した「彼女」の一人が「処理」された。それはまったく目を覆いたくなる光景だった。

「ここ、壊そう」

そう言ったのはアオだった。

「こんなところ、壊してしまおうよ」
「アオ、気持ちはわかるけどどうやって?」

僕がアオをなだめるように言うが、アオは僕の想像以上に怒っていたようだった。

「どんな方法でも使う。許せない」
「アオ、落ち着くんだ」
「無理。ゼロイチ、協力してよ」
「……私は、別に」
「嘘つき。泣いているくせに」
「えっ」

僕はこの場にいることがとてもつらかった。なぜならまるで義憤にかられているアオに対して、ゼロイチの瞳から力なくぼろぼろと涙が零れだしていたからだ。

「#&)%)#)%!!?!!!」

このとき、意味不明な軋み声をあげて、突然ノイがアンドロイドに突っ込んでいった。

「ノイ!!」

アンドロイドがこちらに気づいて恐ろしいスピードで鞭をふるうと、ノイの体はくちばしから綺麗に八等分に裂けてアンドロイドの目の前に落下してしまった。

9 遺伝子 へつづく