短歌 ばかなふたり

1
ほんとうのことはどこにも書いてない彼の宇宙の中にだけ在る

2
その線を越えてしまった者だけの|地球《ほし》の悲鳴を映した瞳

3
嫌味って言った口こそ腐るのにミントを噛んでまた誤魔化すの

4
逆上がりすればあべこべの街が見えるこっちのほうが住みやすそうだ

5
路地裏の電柱にある落書きを朝夕見にくる天使の散歩

6
耳たぶに少し熱持つピアス穴ふれたらだめだ戻れなくなる

7
知りません 愛する人の名と声を夜明けのきみに問えば雲散

8
スパイスはスパイの複数形だってたぶん誤報でほんとにごめん

9
夜が明け涙のあとを隠せないばかなふたりは風景になる

10
揺れているきみに世界を呼びかけて無意味が床にごとりと染みた