PHRASE13 映画館

人は彼の見る世界を否定する。世の理に適っていない、と糾弾する。彼女もまた同じで、彼女は彼女自身の見る世界に適う「彼」を夢見ていた。それ故に、「神」という偶像を理由として彼女は自分を包む『一つの愛情』を否定した。 世の中の…

PHRASE12 記念日

ここにはもう二度と来てはいけない気がした。けれど、今日は、いや今日だからこそ、私はここへ来なければいけないのだ。私は誰からも祝福されてはならない。私は罪人だ。 しかし、罪を償う術を私は知らない。もしかしてこうしてもがくこ…

PHRASE11 春

神様、ごめんなさい。私は愛する人を拒絶しました。かの人は救いを求めていました。私を、心から愛してくれました。 しかし、主よ、かの人はあなたを拒絶したのです。私を守るために自らが神になってしまったのです。その妄想は私の心を…

間奏 LOVE SONG

ここ最近では珍しく快晴という言葉がピッタリな日、高橋美和は日勤のために6時に起床し、出勤の準備をした。朝食はいつも適当に済ませている。夕飯の残りをつまんだり、出勤がてらコンビニに寄ったり。今日は時間があるので、冷蔵庫を覗…

PHRASE10 「私は、夏の終わりを、抱きしめた」

「僕、このでっかい栗が食べたい!」 「こら、まだ手を洗ってないでしょう。これからの季節はちゃんと、手洗いとうがいをしないとダメよ」 「ぐちゅぐちゅ、ぱー。おしまい」 「ふざけないの。お兄ちゃんはもうやったのよ?」 「ふー…

PHRASE9 「僕が神になればいいんだよね?」

俊一は征二にすがりつくユイに憐れみの視線を送ると、ため息をついて携帯電話の電源を切った。ユイは征二の手を握った。すると、弱々しくではあるが握り返す反応があった。ユイはハッとしたが、それは反射神経に過ぎなかった。しばらく時…

PHRASE8 着信履歴

別れてくれ。その言葉がユイの頭の中で何度もリフレインした。なんで私、すぐに「嫌です」って言えないんだろう。 今日の朝からあった出来事が走馬燈のように駆けめぐり、ユイは混乱した。 「今まで随分と迷惑をかけたことだろう。すま…

PHRASE7 忘れてください

ナイフを、持っていた? 「まさか」 征二の兄、俊一は直感した。 「あれ、よく見るとお兄ちゃんじゃないね。でも、そっくり」 夏江は俊一に歩み寄ると、 「ねぇ、お兄ちゃんのお友達?」 「夏江、失礼でしょ、いきなり……すみませ…

PHRASE6 December 2006

数百年前の予言者の偉大なる予言があっさり外れて、世界に「新世紀」が訪れてから数年。だが、時代錯誤な妄想は日常に潜んでいた。 真っ赤な眼をした天使達が街に降りてくる。羽根をばたつかせながら、笑い声をあげながらやってくる。昆…

PHRASE5 予兆

ユイは警察官二人に抱きかかえられるようにして、病院に現れた。『工藤征二 殿』と書かれた札の部屋の前で、立ち止まった。廊下に、見覚えのない人影がまばらにある。その中の一つがこちらに近づいてきて言った。 「佐々木さん、ですね…