夏の五句202206(一)

風薫る洗いざらしのワイシャツよ 涼風よつまびくショパン午後三時 隊列を外れ自由を知る蟻よ 五月雨が地を打ち弾む三連符 へいぼんな日々は宝よ麦茶飲む

今日の短歌 留守電

1 天井を見上げるふたり日曜は約束なしで手をつなぎたい 2 泣き出したゼブラゾーンを行くきみは無口なままで傘をささない 3 引き返すつもりがあれば愛なんて言葉を使うわけないだろう 4 留守電にいまだに残るきみのこえ消去ボ…

ご家庭用

曲がりなりにもキマイラの我である。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く。人間どもはこぞって我を恐れ、権力者らは報奨金までかけて討伐の対象とした。そう、我は世界の深淵という孤独に、いびつな肢体を預け…

今日の短歌 ベランダ

1 ソーダ水こぼしたとたん「運命」を口ずさむきみ指揮するわたし 2 錠剤に向ける視線の邪魔をする きみが見るべきなのは私だ 3 降り立ったホームでカーディガンを脱ぎ風に教わる夏への扉 4 もし栞になれるのならそばにいてと…

今日の短歌 はんぶんこ

1 はんぶんこしたコロッケの少しだけ大きいほうを牽制しあう 2 コンロの火とろとろ見つめ手をつなぐ地球も星のひとつと気づく 3 ラッシュ越えきみ待っている家に着く一等賞はいつもわたしだ 4 ワイシャツがはためく午後にラジ…

今日の短歌 ふたり

1 「ごめんね」を言い出せないで夕飯後渡すつもりのコンビニプリン 2 街あかり きみはあらゆる寂しさに若草色の栞を挟む 3 昼寝するとなりで雨を眺めてる すき の呪文はまた独り言 4 ピリオドを消し去りたくて加速する空も…

Drum ‘n’ Bass

「普遍的価値のある事象だけに意味があるだなんて、随分と陳腐な考えだね。別に、それが悪いとはいわない。ただ、神が何ゆえ、僕らに『痛み』を与えたかについて考えたことはあるかい? それは、僕らが生きているということを、他ならぬ…

薫風

澄んだ空気を鼻から吸い込むと、甘い花のにおいがした。つつじだろうか、くちなしだろうか。草木が生い茂って見えないが、近くには小川が流れているらしく、かすかに水音が聞こえる。 「待ってよ」 私が文句をつけても、彼は軽快な足取…

春の五句202205

うつろいを告ぐ蝶々の瞬きよ べにをさす誰もがやがて春惜しむ 平和こそ心に架かる初虹よ 春愁にひとりラジオの沈黙か 猫の子の生意気なこと花まるぞ

ふたりの一週間 Colorful days go on.

ひとりとひとりとが出逢って、ふたりになった。孤独と孤独とを掛け算したかのようなモノクロの虚しさが、日々を重ねるにつれ、いつしか彩られていく。これはそんな、ささやかで、それでいてどこかが強烈にずれている、「ふたり」の、なん…