第四話 チョコレートとコーヒー
数週間が過ぎて、夏菜子の消息が周囲に徐々に疑われ始めた。元々一人暮らしだった夏菜子は、あまり実家にも連絡を取っていなかったらしく、夏菜子の両親が異変に気付いたのは六月も中頃を過ぎたあたりだった。 「彼氏と駆け落ちしたらし…
数週間が過ぎて、夏菜子の消息が周囲に徐々に疑われ始めた。元々一人暮らしだった夏菜子は、あまり実家にも連絡を取っていなかったらしく、夏菜子の両親が異変に気付いたのは六月も中頃を過ぎたあたりだった。 「彼氏と駆け落ちしたらし…
ひと昔前、「フロム・ヘル」という映画が流行ったことがあった。切り裂きジャックを題材にした映画で、娼婦の女性が連続して殺されていく実際にあった事件を描いたものだ。 それを知ってか知らずか、とある日の午後にショッピングモール…
「夏菜子、今日も休みなんだね」 同窓生の美恵の何気ない言葉に、私は肝を冷やした。美恵はスマホをいじりながら、言葉を続ける。 「ラインしようかなぁ。さすがに心配だわ」 「いや、しなくていいんじゃない?」 私はとっさに美恵を…
桐崎くん。最初に彼の名前を呼んだのはいつだろう。 彼はいつも背筋をしゃんと伸ばして、キャンパスを歩いていた。人気のない学部だったから、人数のそれほど多くない教室の中で、それでも彼は異彩を放っていた。 友人は少ないように感…
1 ああそうか星の見えない夜だからきみの涙が見たくなるんだ 2 真実はいつもひとつというけれどたまに複数あったりもする 3 なぞりつつ今日雨だねとつぶやいた窓枠がひしひしと軋んだ 4 落ちる砂見つめていれば三分は世界で一…
世に響く蝉の声こそ警鐘か ひぐらしよ宛名滲んだ茶封筒 うつせみをしずくといだく野の草よ 薬飲む喉もとの汗ひとすじよ 秋蛍よ月にも太陽にも媚びず
1 お土産は大事な人を数え買う片手で足りずじんわりとなる 2 真っ青な田んぼを鷺が堂々と羽ばたきもせず満足そうに 3 東京へ戻る列車はまたの名を現実行きと呼ばざるを得ず 4 降り注ぐ火の粉を数えているきみ正常なんて野暮な…
抱きとめきれなかった 感情未満のずくずくたちが 何一つ許されることなく 宙空に反響している 見さだめられなかった 後悔未満の星のたまごらが どれ一つ相手にされずに 私のなかに還ってくる 温めるだけでよかった インスタント…
1 お便りは tasukete@アットgod.ne.jp まで 待ってるよ 2 傷跡のない人生はつまらない下味のないチキンみたいに 3 一晩で片づけられたクリスマスツリー 私は笑ってました 4 靴下に穴が開いたら縫えばい…
挨拶のない夜明けに 一途な愛の現在位置を確認した 己の愚かさがよく溶けた アイスソイラテが美味しい午後 しあわせ、と口にすれば ひたいの玉の汗が笑いだす 暑いですねぇ ひところはコートも着ていたのに まだ憂鬱は膝を抱えて…