短歌 霜

1 十年に一度の寒波メイクして街を歩けば頬に立つ霜 2 霜柱踏んづけ歩く朝のみち遅刻のわけを誰も責めない 3 晴れた日にこそ降りる霜出会いとは別れの合図(認めたくない) 4 しもやけになるまで待っていてくれた改札口のきみ…

短歌 雪

1 絡まった毛糸をほどく窓辺にて「粉雪だ」ってきみはつぶやく 2 春を待つ(固いこぶしがほころびるよう)祈りにも雪が積もる 3 雪だるまたぶん私のご先祖もそのご先祖もそのご先祖も 4 「極寒の雪国生まれ」寒さにはめっぽう…

短歌 うしろめたさ

1 すっぴんで街を歩けばなんとなくだけど心は百獣の王 2 アイブロウ上手くいったらそれだけでいい日認定したい明日は月曜 3 お化粧で隠れるものを数えてるわたしの後ろめたさの数を 4 すっぴんはたぶん最強に弱くて一番星の下…

短歌 火へん

1 着火剤よりも苛烈なきっかけがきみであるなら後悔はない 2 孤独より孤立が怖い「助けて」が届かないなら声を燃したい 3 窓ガラスにイニシャルを指でなぞってぜんぶ夕焼けのせいにしたね 4 灯火を絶やさぬように呼吸するきみ…

短歌 日曜

1 目が覚めてトーストを焼く日曜日きみの鼻唄もメジャー進行 2 ラジオからふたりの好きなナンバーがフルコーラスでかかる日曜 3 宝物? ゆびわ、ともだち、きみ。プリン食べているから、うん、順不同 4 「太陽とちょうどいい…

短歌 あの頃

1 胸深く埋うずめたはずの黒歴史優しい他人ひとが掘り当ててきた 2 教科書の隅のパラパラ漫画では上手にいったはずの告白 3 カニカマを蟹と信じて生きていた11歳は幸せだった 4 爪を噛む癖が治ったあの頃に確かに何か失った…

短歌 羞らい

1 羞はじらいは心の溝に生える苔どうか触れずに育ててほしい 2 走れ、いまこの瞬間の羞らいはいつかの実り 心のままに 3 羞らいを忘れた人が集まると偏差値がどうとか言い出して 4 満員の電車に宿る数百の命と同じ数の羞らい…

戒飭——愛の作法

貴方からの戒飭かいちょくは、愛だと思っていた。疑う余地は一切なく、只管ひたすらに僕は、貴方の愚かな信奉者であった。 このことを過去形で語るのは、綻びを是としない認識を今や僕が忌避しているからだ。貴方が春風を連れてくるなら…

短歌 シナプスと猫

1 もう一度絶望したいリスタートしてこそ見える景色が見たい 2 心臓に近づける耳わたしにはわたしの生きる理由しかない 3 遮断機は規則正しく排除する生きる予定の人と猫とを 4 照らされたファストファッションの看板倒れるの…

短歌 あひるの玩具/カレイドスコープ

1 叫んでも届かないから沈黙と仲良しになる あひるの玩具 2 覗き込むカレイドスコープの眩しさ失望よりも暇いとまが怖い 3 明日には忘れてしまう中指で押したあひるの玩具の湿度 4 もう二度と出会えない気がしても目が離せな…