ぼくとおねえちゃん

ベテランパイロット、マイケル・スペンサー(仮名)の証言 「確かに俺は見たんだ。あいつがあぐらをかいて、大あくびしていたのを!」 ぼくには大好きなおばちゃんがいる。でもおばちゃんって呼ぶと怒るからおねえちゃんって呼んでる。…

短歌 夢

1 封筒の切手を丁寧に剥がすのは夢から覚めるのが下手だから 2 クッキーが焼きあがるまで起きないで銀世界だと気がつかないで 3 白線の外側へゆく人たちに手をふり返す冬の夕暮れ 4 イルミネーションの明滅きみがいま壊れゆく…

短歌 花

1 風を受け素直に泣けた夜にだけ銀河の果てに咲く花がある 2 もう二度と会えない人にLINEするしゃぼん玉みな壊すつもりで 3 花束を贈りたい人がいることより重いわけなど知りたくもない 4 花びらを口に含んだ夜のこと忘れ…

短歌 喫茶店

1 喫茶店 死にたくなると溶けかけの氷を口に含んだ二十歳 2 カウンター席の隅っこで目が合ってキーボードでunmeiと打つ 3 禁煙かどうか聞かれて「大丈夫です」ここでなら泣ける気がして 4 待ち合わせ時間まであと20分…

マフラーを編むほどに急く指先よ 初雪が迷いと消える街角よ クリスマスツリー仰いでひとりの夜 ひと切れをわけあう頬の赤らみよ ただいまを待つ父母よ十二月

短歌 鼓笛隊

1 背伸びして一口すするカクテルでちゃんと酔うから馬鹿にしなさい 2 見上げればコールドムーン ラジオから知らない人の結婚報告 3 知らないと知りたくないのあいだには八分休符が群生してる 4 笑い声泣き声悲鳴さまざまの音…

短歌 あいらぶゆー

1 アルペジオ星を追った夜 切なさを携え息する獣が二匹 2 流星は儚いねって泣くきみの保障されない明日を想う 3 なぜ星が美しいのか(命から最も近い場所にあるから) 4 星がいまきみのなかでハレーションする それを人々は…

ガトーショコラの約束

吉田美咲の日課は、三毛猫のマグに朝ごはんをやることから始まる。準備を整えて待っていると、店の奥から澄まし顔でマグがやってくる。冬の足音が聞こえだした街の一角にある、小さな喫茶店の朝だ。 「マグ、おはよう」 当然ながら返事…

暖炉の炎

時に紅く、時にほの白く、また時に蒼く。ゆらゆらと揺らめく炎が絶えないよう、薪をくべ続けるのが僕に与えられた唯一の使命だ。 炎は物言わない。けれど、かしましい人間よりよほど思慮深いと感じる。地の果てと名付けられた場所で、僕…

短歌 満ちてゆく月

1 月明かり左手首の傷痕に名前を付けた 消えないように 2 偏差値が偏見差別の値だと気づいた人に満ちてゆく月 3 月のない夜にランパトカナルする いのち、いのち、いのち、いのち 4 搾取する/される関係 ハウツーのどこに…