2 実

季節、という概念が消え去ってどのくらい経っただろう。困ることといえば、その日の気候や温度の振れ幅非常に広いため、着る服に毎日注意を払わなければならないことだ。 かつては気象を予測可能な情報、つまり予報として伝える職業もあ…

1 シチュー

少女はやや乱暴な所作で僕の作ったシチューをあっという間に平らげた。 「おなか空いてたの?」 僕がそう問いかけると、少女はスプーンを半ば叩きつけるように器に戻した。 「別に。出されたから食べただけ」 「そう」 アオがスプー…

プロローグ ひかり

世界の終わりのそのあとに、僕たちは小さなレストランをはじめた。 光の残骸は生命だから、生命は光に焦がれ光を求めるというアオの仮説は、なかなか興味深い。薄暗い倉庫の片隅に放置された錆びた鳥かごを僕が持っていたペンライトで照…

4,5,7

strawberry feels foreverの続きです サイコっぽい男「きみを剝製にしてあげる」 付き合っていた女「そんな……剥製づくりに必要なミョウバン、塩、石膏、ウレタン、すべてが値上がりしてるこのご時世に!?」…

短歌 雨になる

1 土曜日があなたのせいで雨になる好きにならないわけないだろう 2 癒されてほしくない傷だってある生々しいと美味しそうでしょ 3 風船は割れてはじめて風船を欲しがった日に音符を添える 4 燃え盛るほどに心は弱くなる焼き場…

エピローグ きみが生きているから

東京都の刑法犯認知件数は全国トップクラスである。件数こそ減少傾向にあるものの、一事件あたりの悪質性は増しているといって差し支えない。 この日も捜査一課の若き刑事、葉山と竹中、そして高田は残業をしていた。クリスマスイブの一…

第十章 純愛とか笑わせんな

竹中に引きずられるようにして、葉山は遺体安置室へと姿を現した。雨に降られたことを差し引いても、心身ともにぼろぼろといった表現が相応しい風体だ。 白い布のかけられたベッドが一台、中央に置かれている。そばでは、座ってうつむい…

第九章 選択と決断

雨足が徐々に弱くなって、傘がなくてもしのげる程度になった。通りを一本表に出れば、濡れそぼったイルミネーションが弱々しく点灯しており、デジタルアレンジされたインストゥルメンタルのクリスマスソングもよく聞こえることだろう。 …

第八章 ご予定は、殺人ですか?

「クリスマスイブのご予定は、殺人ですか?」 単刀直入な若宮の質問に、葉山は持っていたマグカップを落としそうになった。 「な、何を言い出すのかと思えば、人聞きの悪いこと言わないでよ」 「それとも、私とデートしませんか」 若…

第七章 夢の機械

デートの待ち合わせと呼ぶには、微妙な場所を選んだものだ。JR青梅線東中神駅。きらびやかとはとても言えないし、どちらかというと閑静な住宅街である。 中央線で立川まで行って、乗り換えてさらに西へ向かったので、移動だけでもひど…