冬202011

1 まだ指で疵を数えている人に初冬の風は容赦なく吹く 2 吐く息が白くなったら人々は大事な人を想うのだろう 3 あんまんを分けあう人がいたとして基本的には一人で食べる 4 泣くこともできずに心凍らせたきみのとなりにストー…

都市を詠む

白い息はずませ進む交差点 クリスマス山手線で結んだ手 初雪を同じビルから見るひとよ ビル群はイルミネーションみなひとり 枯木立ひとりで歩く渋谷駅 新宿よ冬の落暉に細める目 肉まんであたたまるのが都市の冬

短歌 秋

1 流行に乗り香水を買ったけど自分のせいにされたくはない 2 散り終えたあとの枝にもブランコの紐が括られ少女が遊ぶ 3 あたためたミルクに張った膜ひとつ曖昧なまま破る真夜中 4 金魚鉢ひとり寂しくないのかと問うてもゆらら…

文房具

1 叫んだら届くだなんて嘘でしょうボールペンさえ消せる時代だ 2 削るほど鋭利になってく鉛筆は心模様の代弁をする 3 落書きを消すためだけに使用する修正液が上塗ったもの 4 人を刺すことさえできる道具にてきみに手紙をした…

短歌 風

1 木枯らしは過日のきみの歌声を遠く遠くへ連れ去ってゆく 2 スカートをめくる北風もしかして私は恋をしたんでしょうか 3 傾いて置かれたままの写真立てのなかのきみは風を知らない 4 落ち葉舞う朝を迎えて別れだけ必然である…

短歌 カクテル

1 背伸びしてキールを飲んだ5分後にくたっと肩に寄りかかるきみ 2 新しいリップを買ったばかりでも別れ話に関係はない 3 ふられた日ブルームーンを飲み干して海を見にいく予定を立てる 4 リクエストソングにとことん励まされ…

恋する星座

1 偶然が必然になる瞬間は辞書には「恋」と記されている 2 また会える約束だけがオリオンのとなりで今も瞬いている 3 綺麗事という必要悪があり今日もなんとか生きてゆけます 4 オリオンのいちばん右で光る子はあたしの好きな…

短歌 晩秋のカニ

1 コンビニで肉まんを買ういつもの儀式のように冬が近づく 2 道端に冷えたコインが落ちていて寂しくなっていいのだと知る 3 1プラス1が2になるとき0はレゾンデートルを探しはじめる 4 くちびるをくっと上げたら虚しさに勝…

短歌 のど飴

1 のど飴をくれた人から幸せになれる仕組みを早く作って 2 口当たりのいい言葉を多用する優しい人を見たことがない 3 自己犠牲という言葉を知らずとも「みんな違ってみんな」がそれだ 4 誰かさんの機嫌のために潰されるこころ…

神無月

さよならを見送るだけか秋の風 林檎食む頬に夕陽のさしてこそ 稲妻と落ちる初恋閃いて 目をつむり亡き友と酌む紅葉酒 すすきまで手をふり返すひとりの夜 快速よ待ち人の住む街も秋 オルゴール遠い記憶に照る紅葉 赤とんぼ追い越し…